第45話
ズッ……と音を立ててネイサン青年が闇に足を踏み出す。
周囲は、1m先も見えない。只の闇。真っ暗と云う言葉が真の暗闇を表していないと魂の奥底から本能から理解する様な、闇。
届かない灯りを先へ向けるが、やはり見えない物は見えない。
ぐいと身体を闇に押し付け、手で掻くが、どうやら跳ね返される様子で、やや後ろに下がる。
「兄さん、先に行ってよ」
待て! 眼鏡ニイサンはわたくしを抱いているのだぞ!? 眼鏡ニイサンが先に行くと言う事は必然的に先頭は……
「暗くて見えないから怖いんでしょう? 仕方無いなぁ」
まるで夜中にトイレに付いて来てくれと言われたかの様に柔らかく笑うと、眼鏡ニイサンがするりと闇の中に足を踏み出した。
音も無く。
するすると 何 も 無 い 様 に 進む眼鏡ニイサンの服を掴んでネイサン青年が付いて来る。
階段を一歩一歩進むが、その階段の上り下りに当然有るべき軋み音が、全く無い。
音すら闇に吸い込まれたのだろうか、二人の息の音だけがやけに響く。
足元も壁も闇に包まれ、はっきりと見えるのは、ネイサン青年と眼鏡ニイサンの全身だけで……其れもおかしな話なのだが……上も下も判らない様なグルグルと振り回される様な平衡感覚が不確かな状態に陥って居た。
ややあって、立ち止まった眼鏡ニイサンが、一つの部屋に入った事を知る。
それは、その部屋のベッドらしき場所に置かれたからなのだが。
「じゃあ、頑張ってね」
爽やかに、ネイサン青年が言う。
柔らかに、眼鏡ニイサンが言う。
「明日、迎えに来るね」
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