第42話

成程、気を使ってるのですね。


気を。


「気を遣う」では無く「気を使う」に聞こえるのは、気の所為では無いのでしょうね。


そう云えば、うっかり意識を逸らすとネイサン青年が薄らと輪郭が暈けてる様な、そんな感覚に陥る。


実在しないかの様な。


成程、何と便利な。




ややあって、目当ての場所へ辿り着いた。


其処に、本当に、存在していた。


夢の中の、その、建物。


今は廃墟となっているらしく、近所の中年女性に「誰も住んでいない」「此の場所は呪いが掛かっているから近づかない方が良い」「観光ならもっと別の良い場所がある」と親切に教えて頂き、丁寧に感謝の意を述べた。


確かに雰囲気が有る。重厚な石の壁。年代を重ねて更に重みを増した存在感。黒く燻んだ色になっている其れは恐らく昔は鮮やかな色だったのだろうと簡単に想像は付く。


扉に手を掛けようとしたネイサン青年の手が、弾かれる。


静電気だろうか。


ネイサン青年が、鞄からバールのような物を取り出す。


金属音して火花が散った。ドアノブが吹き飛んだ。


先程、金物屋で購入した獲物を早速使うとは。


思わず周囲を見渡すが、誰も此方を気にしては居ない様子である。




「だから、僕だって少しは使えるんだってば」




其れは、「力」とか「気」とか呼ばれる物であろう。


恐らく其れで結界か結界の様な物かを作り出し、自分達と扉を、若しかしたら建物までもを隔絶させたと。


結構、凄い事なのでは……?




「兄さんが居ると安定して使えるんだよね」




重い音を立てて、木製の扉がゆっくりと開いた。

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