第32話
妙な夢を見た。
人形は夢を見るのか、とは誰の命題であったか。
兎にも角にも、夢を見たのだ。見るのだろう。
其れとも此れも眼鏡ニイサンの力の片鱗なのか。
夢の中で、自分は第三者で在ったのは間違い無い。いや、存在していたか如何かも怪しい。
大体夢とは不確かで朧気で覚束無い空漠たる幽かで曖眛な物なのだ。
夢の中で死産した赤子と目が合った等と訴えた所で鼻で笑われるのが関の山だろう。
無意識に鼻を撫でて居る事に気付き、此処半年、その実とても気にしていたのだとやや肩を落とす。
洗濯挟みで鼻を摘だり、其の痕が付いて眼鏡ニイサンを悲しませたり、ネイサン青年に付け鼻を付けられたり、色々有ったりしたりしていた。
やっと、元に戻った所だと云うのに、妙な夢に悩まされる事になるとは。
そもそも、今迄夢と云う物を見た事が無い。
なのに夢と断じられるのは、その夢の中の世界が現実とは思えないからだ。
地下のある娼館、重厚な石の壁。色とりどりの髪の色、瞳の色の女達。
恐らくは日本では無いだろうが、彼女等の声は、何かで耳を塞がれてでも居るかの様にくぐもってよく聞こえないし、何となくの理解は恐らく脳内で適当にアテレコしただけであろう。
脳は未だ無いが。
いや、人形なのだから無くて正解なのだが。
しかし。と思う。
しかし、あの死産の赤ん坊と目が合って現実に引き戻されるのは、心臓に悪い物だと、思う。
心臓も未だ無いが。
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