第31話
紅い瞳の赤ん坊が産まれたのは、娼館の地下、日の射さぬ昼日中でも薄暗い一室であった。
母は生まれつき目の見えぬ、体の弱い少女である。
少女もまた、娼館で産まれ、父の顔も知らぬまま育った。
産まれた時に、産婆からは長生きは出来ぬだろうと宣言された。
長くて3年。ともすれば明日にでも。と。
しかし、少女の母親は、育てると言ってきかなかった。
そもそも、産むと言って頑固に腹の中で育て続け、産んで見せたのだ。そして、産後の状態が宜しくなく、呆気なく死んだ。
その子となれば、もう、その館のみんなの子供みたいなものだった。
だが、日に触れれば日膨れが出来、高熱を出し、何度も死にかけた。
それが、10になる頃、恐らく、思いがけず長生きをしたとでも言えば良いのか。過保護だった娼婦達や主人の目が、監視が、弛んだ。
誰も入れないはずの地下の部屋に籠りきりの筈の少女が、嘔吐を繰り返して、とうとう寿命なのかと皆が思い始めた時に呼ばれた医者によって、妊娠が発覚した。
勿論、先ず疑われたのは館の中の男衆だが、少女は誰かを庇ってか首を横に振り続けた。
違う違うと。名の知らぬまま行きずりの相手と一度きりの逢瀬で子が出来たと。そう言った。
大事に大事に育ててきた少女を誰が汚したのかと、女主人の怒りは烈しく、危うく男衆全員宦官にされる所だった。
だが、頑なに彼等は悪くない。自分が男を引き込んだのだと告げる少女の健気さに、娼婦全員で女主人を止めた。
少女の腹は日に日に膨らみ、少女は日に日に衰えていった。
そして、膨らみきったある日、産気付き、少女は母と同じ運命を辿った。
産まれた赤ん坊は、息をしていなかった。
ただ、見開かれた其の目だけが赤く輝く宝石の様に輝いていた。
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