第28話

無言で見返してくる眼鏡ニイサンの反応に、しまったかな……と思わないでも無かった。


有態に言えば、調子に乗ったのだ。


無駄に波乱を巻き起こしてしまう様な行動を軽率と言わずして何と言おうか。


暫しの、重い沈黙の後、眼鏡ニイサンは力無く笑った。




「ああ、よろしくねぇ……」




倒れるかと思ったが、倒れなかった。


寧ろ、普通の範囲とも取れる反応だ。


大分遅くはあったが。




「えーえええ喋るの可愛いねぇ。動くの可愛いねぇ。瞼を作って瞬きをできる様にしようかなぁ」




……その場合はやはり頭を割って目玉を取ってするのでしょうか……?


出来ればなるべく出来るだけ絶対ご遠慮したい所存で御座いますれば。




「兄さん、凄いんだよ。産まれた時は日本国内のみならず外国から迄、産まれた子の顔を一目見せてくれって、宗教家だの占い師だの霊能力者だのが押しかけて来たらしくてね」




ネイサン青年曰く。


眼鏡ニイサンは産まれ以っての凄い力の持ち主だが、其の力を、此の家系で使うには、性格が臆病過ぎた。


本人の怖がりの性格により、「オバケこわい。イヤ」で所謂“オバケ”が存在出来ない空間を広範囲に作り出してしまう。


しかも本人を中心にしている為、無意識に移動式結界を常に張り続けて在る。


弱い霊なら吹き飛んで消えてしまうし、強い霊でも封じ込められてしまう。


それは、所謂呪いの人形を扱うのには、適正が有った。


幼ニイサンは、汚れたり壊れたりした人形達を、綺麗に修復し、化粧し、服を仕立て、生まれ変らせる事に、夢中になった。


当主がお人形遊びなんかと嘲る親戚も居ないでも無かったが、その親戚でも手が付けられない程の人形が、幼ニイサンの前に出ると途端に大人しくなる。それこそ普通のお人形の様に。


それは、人形師である人形の修復技術を教えた幼ニイサンの祖母、いわく憑きの人形専門の祖母が優しく丁寧に教えて育てた、当然の結果であった。


「お人形ならこわくないでしょう? 綺麗にしてあげればほらこわくない」


そうやって「綺麗に」する方法を教え込んだのだ。




では、なぜ、今現在、この一介の人形風情が動けて喋れるか。




「暗示って便利だよねぇ」




何か、悪事が聞こえた気がした。

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