第12話

「あれ、捨郎さんじゃないですか。こんな所で奇遇ですね」




爽やかな声がした。


地響きと共に沈んだストロベリーちゃんを見下ろし、爽やかに爽やかに笑顔を向ける。




「喜市さんまでお揃いで」


「いやああああ、ピーチママって呼んでえええええ!!!」


「ストロベリーって呼んでえええええ!!!」




鼻血を出しまま何か吠えていらっしゃる。


ぶんぶんとその手の人形を振り回し、喜市ママが青年を指さす。




「ストロベリーちゃんの純情を今こそ貰って貰うわよ!!」


「車上荒しですか、警察を呼ばないとですね」


「痴情の縺れよぉぉぉおおお!!!」


「あなたの子供を産みたいのぉぉぉ!!!」




捨郎ベリーちゃんが鼻血を振り乱し、物理的に無理難題を叫んでいらっしゃる。




「1500万円」




にっこり笑って青年が言った。


化け物2匹の動きが止まる。




「ほら、車に傷付けたでしょう? 器物破損。それに不法侵入。窃盗未遂」




此方を指さす。




「その人形ね、結構なアンティークで、好事家の間で物凄い高値が付くんですよ。そんな鼻血塗れにされて、困るなぁ」


「ひぃっ!」




喜市ママが、やっと人形を持ったままなのに気付いたのか、その価値---嘘臭いが---に動揺したのか、青年に向かって投げつけた。




「おっと」




青年が避ける。


ぼとり。


落ちた。




「あーあ。慰謝料上乗せしなきゃ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る