第9話

甲高い音がして。


飛んで、飛んで、転げて、転げて。


壁にぶつかってバウンドして止まった。


多分、これ、10mは飛んだ。


痛くないけれど。痛くは無くて良かったけれども、これはあまりにも無抵抗な相手に非道では無いのですかねと軽い怒りが湧き出でる。




なにせ此方は裸で、全裸で、髪も焼け落ちて、しかも無抵抗で、身体も小さく、か弱い形をした小さな子供のお友達用お人形ではないか。


可哀想と言われる事こそあれど、この様な扱いをされる覚えなぞ是っぽっちも持ち合わせては居らぬではないか。


通り魔の如き言葉も通じぬこの所業。不埒千万と言えるのではないか。


裁判で訴えれば、否、訴えずとも警察に逃げ込めば保護されて、件の青年は逮捕されそのまま実刑になるのでは。


否否否、誰が人形の言葉なぞ聞く耳を持とう物か。


射殺されて終了のお知らせであるに違いない。


死ぬかどうかは不明だが。


バールのような物から釘バットに獲物を持ち替え、青年が見下ろして来る。


なんと云う事でしょう。


どこまでも爽やかな笑顔です。


爽やかに釘バットで突いて来ます。


死んだ振りしていれば満足して帰らないかしらとか思ってみたりして、とても良い案を思い付いたりしたのではないかと自画自賛しつつ、死んだ振りに徹する事に決めたのですが。


決めたのですが。


死んでます。死んでますよ? 死んでるんですよ?


そんなに、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も釘バットを叩きつけなくても死んでますよ?


ほら、反応無いでしょう? そうでしょう? そうに決まっておりますとも。


わたくしは死んでますよーっと。




ちょっとコンクリの床に埋まっている気がしなくもないですけれど。




退治完了ですよ退治完了。


お疲れ様でしたー。ですよ。




「全然、壊れてくれないねぇ、君。ほんとおまえ、気合入ってるなぁ」

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