第8話
「で、君を退治するのが僕の仕事なんだけどね」
一頻り笑い転げた後、青年は立ち上がり、何も無かったかのように此方を指し示した。
退治されるような覚えは無いのだが。まぁ、何もしていないゴキブリだって退治されるのだから、何もしていない人形だって退治されるのだろう。
しかし、いつだって決して希望だけは捨ててはいけない。いけないのだ。
「何もしていないのに退治すると?」
「君には理不尽だろうけれどね。流石にゴミ処理場の燃焼炉から無事出て来られるとねぇ」
五体満足とは言えないと思うのですが。
「まぁ気持ちは理解できます。しかし承諾は致しかねます」
「んじゃま力づくで」
爽やかに物騒な物を振り被らないで欲しい。
こちらは全裸なのだし。禿げてしまったのだし。
「いや、待って下さい。待ちましょう。話をしましょう。誤解です」
「えー。悪霊と対話して良い事無いんだけどなぁ。お金とか世界の半分とか要らないよ」
「いえいえいえ、先ずそこが、そここそが誤解なのです。わたくしただの一介の人形です故、先程まで身動き一つ取れずむしろ為すがままされるがままだったではありませんか。そうでしょう。そうに決まっております。なにせわたくし、ただの人形で御座います故」
「ただの人形にしちゃペラペラ喋るし燃えずに残るし自力で這い出して来るし。説得してくるとか、悪霊ではなく噂に名高い悪魔の類かな?」
「とんでもない。何故その様な恐ろしい物である筈が御座いましょう? 古今東西、悪霊人形や悪魔の人形と言えば、髪の毛一本、服の端すら炎の中に居た形跡が無い程では有りませんか。このわたくしがそんな恐ろし気な物に見えますでしょうか?」
「悪魔は、人を油断させて契約をし、その魂を手に入れるのが、古今東西のやり方でしょう? そんな面白い外見になったからと……なったからと云って……」
獲物を一旦下ろし、笑いを堪える青年。
もう笑って頂いて構わないのだが。先程散々に笑い転げあそばされたのだから。
「普通は、先ず除霊か悪魔祓いかするんだけどまぁ、ほら、めんどくさいし、大概は物理でどうにかなるし」
再び。気を取り直した青年が、バールのような物を振り被る。
「疑わしは罰せよ。てね」
えへっ。と笑って、青年が爽やかにバールのような物を振り下ろした。
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