第3話
「いやあ、凄い念ですね……。此処からでもわかりますよ」
随分と爽やかに言ってくれるモノだと、意識を其方に向けると同時に、重く軋んだ音を立てて眩い光が辺りを照らし出した。
工場の扉が開いたのだと理解するのに、数秒かかった。
お恥ずかしい話だが、天使か勇者か何かそんな者が降臨された後光かと。一瞬だけ、一瞬だけ思ったのだ。
「ほら、あの辺り」
長髪の青年が此方を指さす。
扉を開けようが何をしようが暗く昏い、此方を。
「流石に数十年放置されているだけありますねぇ」
そんなになのか。それは知らなかった。
数十年放置されていれば、それは怨霊にだってなりたくもなるだろう。
他の仲間は梱包され店頭に並び子供たちの友達として買い与えられ、思い出の一部になっていくというのに、こんな所で虫とカビに好い様にされて、恨みも辛みも募らない訳が無い。
それは仕方が無いという気もする。
「うちの父が夜逃げしてからずっとでしょうからねぇ」
青年の後ろから頭皮が大分“こんにちわ”している中年男性が現れた。
夜逃げとは初耳だ。
まぁ、初耳で当然なのだが。
成程、そちらの男性の父親も加害者と云うだけではなく情状酌量の余地があると、をい、何をしている……?
「とりあえず、処分しましょう」
爽やかに言って、青年が、人形の山に手を掛けた。
反対の手には指定ごみ袋。
「産廃業者には連絡済ですから」
待って欲しい。
此処から連れ出して欲しいとは熱烈に思う所では有るけれど、待って欲しい。
お願いだ。
待ってくれ。
火あぶりは嫌だ。
別の、何か別の方法が、話し合えばわかる。話し合えば。
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