結んで開いて綻んで⑧




―――これでいいんだ。

―――これでよかったんだ。


数日後、大和は双子たちとは別のグループに入っていた。 だが三人のことが気にならないわけではない。 本当はそのままの関係でいたかった自分も、確かにいるのだ。


「おーい、律ー! 博人も来いよ!」


貴人と博人は無事仲直りをした。 貴人の元気な声を聞き、自然と視線は貴人と律のもとへ動く。 大和がいなくなったおかげか、律は普通に貴人と話していた。


―――少しだけ、複雑・・・。


外から眺めてみると、やはり自分はいらなかったのだと思い知らされてしまう。 博人も、と思い視線を移動させてみるとバッチリ目が合い慌ててそらした。 偶然なんかではない。 

明らかに自分を見ていたのだ。


―――博人、僕のことを気にかけ過ぎだって・・・。

―――いや、そんな僕も博人たちのことを目で追っちゃうから、人のことは言えないけど・・・。

―――そして貴人も貴人だ。

―――無理して明るく振る舞っているのか、どことなく空元気を貫いている気がする・・・。


このままではいけないと思った。 輪から外れても二人に迷惑をかけている。


―――僕はもう大丈夫だっていうことを証明しないと!


最近仲よくなった友達のもとへと駆けていく。 精一杯の元気を装って。


「ヒロキくん! 何を話しているの?」

「昨日、兄ちゃんからバトル鉛筆をもらってさ! 一緒に勝負しないかって」

「え、何それ! 面白そう!」


笑顔を見せる大和を見てなのか、博人はようやく視線を外し貴人のもとへと向かった。 それが横目で見えた大和は少し表情を暗くする。 

本当は前みたいに戻りたいという気持ちが、間違いなくあるのだから。 確かに新しいグループの友達と一緒に過ごすのも悪くない。 

だがやはり思い出すのは、転校してすぐ声をかけてくれた時の双子の笑顔なのだ。 何故か休み時間が終わるのが遅く感じられる。 それでも確実に時は刻み、次は体育の授業となった。

着替えを終えグラウンドへ行く途中、大和は帽子を忘れ教室へ戻っている最中だった。


―――前の学校では授業中被らなかったから、慣れないんだよなぁ・・・。


急いで教室へと戻り帽子を取ってとんぼ返り。 そう考えていたのだが、一人の少年が目に入った。


「ッ、博人!?」


博人が一人座り静かに読書していたのだ。 あれからまともに話すことができていないこともあり、まるで身体が固まったように動かなかった。


「・・・大和」


そんな空気を切り裂いたのは小さく呟いた博人の言葉だった。 あの時、川に落とした相手。 博人自身は貴人に比べると穏やかな性格だが、そのことに罪悪感を感じたまま今も心はくすぶっている。 

静かな二人きりの空間でバッチリと目が合えば、無視することなんてできない。


「あ、えっと、博人はどうしてここに? 次は外で体育だよ?」


話すのがとてつもなく久しぶりに感じた。 実際そんなに日付は経っていないわけだが、気持ちの問題なのだろうか。 博人も面食らっているのかすぐに答えは返ってこず、恐る恐るといった様子で口を開く。


「・・・うん。 今日は体調が優れないから休んだ。 外は寒くて身体冷えるだろうから、教室で待っていていいって」

「あ、そうなんだ・・・。 お大事にね」

「ありがとう。 そういう大和はどうして戻ってきたの?」

「僕は帽子を持っていくのを忘れちゃったから」


そう言って自分の席へと移動する。 体調が優れない原因は、もしかしたら自分も関係があるのかもしれないと思ってしまった。 すると博人から思いがけない質問が飛んでくる。


「大和は、どうして僕たちの輪から抜けたの?」


「・・・え?」


―――それ、聞くの?


本当は気持ちを察して聞いてほしくなかった。 だが確かに気になるのも当然だろう。


「僕たち、大和に嫌な思いをさせた?」

「いやいや、全然! 僕がいて、みんなの輪を乱したのがいけないんだし。 前に言った通りだよ」


―――・・・あとは、律くんに嫌われているから。


当然それは言えなかった。 まるで告げ口のように思えたからだ。 しかしそれを見透かしたかのように博人はあっけらかんと言った。


「もしかして、律に好かれていないから?」

「なッ・・・」


今まさに考えていた図星を突かれ、帽子を取り出した手が止まる。 律に好まれていないことを、どうやら二人には気付かれていたらしい。


「やっぱりそうなんだ」

「でも三人の輪には今更入れないし」

「僕たちのことを思って抜けたんでしょ? じゃあ、大和の本当の気持ちは?」

「僕の、本当の気持ち・・・?」

「そう。 大和は僕たちと、もう一緒にいたくないの?」


その言葉には力強く即答した。 これ以上自分に嘘はつけなかったし、ここで誤魔化してしまえばもう二度とそのチャンスを得ることはできない気がしたのだ。


「そんなわけないじゃん! これからもずっと一緒にいたいよ」

「だったら!」

「でも駄目なんだ、僕がいたら。 どうやら僕は疫病神みたいで、三人の仲を崩してしまうみたい」

「・・・」

「ごめんね、博人。 そしてありがとう。 博人たちのおかげで、この学校生活にも大分慣れたし新しい友達もたくさんできた。 僕はもう何もいらないよ。 それじゃあ」


それでもそう言うしかできなかった。 本当はどうすればいいのかなんて大和には分からない。 ただ律とはそういう約束で協力を取り付けたのだ。 

自分がいない方が三人が上手くいくのなら、やはり自分は身を引くしか道はなかった。



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