結んで開いて綻んで⑤




更に日を跨いでも喧嘩を継続している二人を見て、大和は考えていたことを実行に移す。 まずは博人に話を聞き、それから貴人の話を聞くといった具合だ。 

最近は皆一人でいることが多いため、話しかけるのは簡単だった。


「博人、おはよ! 一つ質問をいいかな?」

「大和おはよう。 何?」


双子に無視されていない自分が、この役目をやらなければならないという使命感がある。


「貴人のことはどう思ってる?」

「え、どうって言われても・・・」


目を泳がせながらも博人は答える。 もしかしたら、二人はただ意地になっているだけなのかもしれない。


「貴人は本当にいい加減な兄だよ。 いつも人の気持ちを考えないし、一方的だし。 でも・・・」

「でも?」

「・・・たまには、頼りになる時はある。 常に前向きで積極的な貴人だから、いつも背中を追ってばかりいる。 そこは消極的な僕と違って、憧れる・・・かな。 

 僕だって本当はくだらないことで喧嘩をしたくないんだ。 でも今回は大和の件だから、そう簡単には折れたくなくて・・・」

「よかった!」

「え?」

「博人、僕のためにありがとう」


そう言うと、返事も待たず今度は貴人のもとへと走った。 彼は律の席で楽しそうに何かを話している。


「貴人!」

「おー、大和。 大和も一緒にガオガイガーの話をするか?」

「ねぇ、貴人は博人のことをどう思ってる?」

「は、何だよいきなり・・・」

「いいから!」


博人と同様目を泳がせながら答える。


「・・・生意気で可愛くない弟だよ。 俺の言うことだけを聞いていればいいのに、自分の意志を貫き通してくるんだから」

「・・・」

「でも俺、博人が自分の意見を通しているのって他の人の前では滅多に見ないんだよな。 他の人にはよく流されるのに、俺だけには反抗してくんの。 それは少し嬉しかったりする」


きっかけさえあればいいのだと理解した。 そうと分かれば、大和の気持ちが高ぶっていくのも自然なことだった。


「ッ・・・! 貴人、あのね! 博人も同じ気持ちで、実は貴人のこと――――」

「ま、待って大和! それ以上は言わないで!」


だがそれを止めたのは先程話を聞き出した博人だった。 大和が何を言おうとしているのか、大きな声だったため分かってしまったのだ。 


―――どうして?

―――博人の気持ちを伝えれば貴人はきっと喜ぶはず。

―――これで仲直りができるのに・・・。


そして間の悪いことに、大和を止めた博人を見て貴人が変な勘違いをしてしまう。


「はぁ? どうして大和の発言を止めんの? もしかして俺の悪口を大和に言ったのか?」

「ッ、違・・・! 貴人だって、僕の悪口を言っているのを聞いていたぞ!」

「だったら何だよ! 事実を言ったまでじゃねぇか!」

「もう信じられない。 否定もしてくれないなんて」

「ふんッ」


二人は更に機嫌を悪くし、別々の方向へと行ってしまった。


―――え、どうして!?

―――更に関係を悪くさせちゃった・・・。


大和は空回りをしていた。 律は呆れているのかずっと本に視線を落としている。 その視線のまま静かに口を開き、突き刺すように言った。


「だから余計なことはするなって言ったのに」

「・・・」


―――確かに律くんの言った通りだった。

―――でも、このまま二人がずっと仲が悪いままだなんて嫌だよ・・・。

―――僕はどうしたらいいの?


大和はその場で立ち尽くすことしかできなかった。



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