結んで開いて綻んで④




「博人、おはよ! 貴人とは仲直りした?」

「おはよ。 ・・・貴人? 貴人って誰?」


週を明けたら流石に仲直りしているだろうと思っていた。 教室へ着くと博人が一人読書をしていたため声をかけてみたが、どうやらそう簡単にはいかないらしい。


―――えぇ!?

―――仲直りしていないの!?

―――貴人の存在を、なかったことにするなんて・・・。


言葉を失っていると貴人が遅れて教室へやってくる。 二人が一緒に登校をしないのを、この日初めて見た。 

今度は貴人のもとへ行ってはみたものの、やはり双子の片割れが一人機嫌を直していることはない。


「おー、大和おはよ」

「おはよ! 博人とはまだ仲直りしていないの?」

「していねぇよ。 というか、するわけがないじゃん。 あの馬鹿弟と」


そう言い放ち貴人は席へと着く。 大和は今自分ができることはないと思い、一日二人の喧嘩がどれ程尾を引いているのか観察することにした。


―――やっぱり仲直り、していないんだ・・・。

―――というより完全に僕のせいで二人は喧嘩をしたんだよね。

―――僕がいるせいで、気を遣わせちゃったから・・・。


今更そう思ってもどうしようもなかった。 何せ謝るようなことを一切していないのだから。


―――・・・僕はやっぱり、三人の中に入ってはいけなかったんだ。

―――もっと早くに抜ければよかった・・・。


それでも自分のせいだと思い、何とか二人を仲直りさせることを決めた。 だがその時、先日の律の言葉が頭を過る。


『・・・お前にアイツらの何が分かるんだよ』


―――・・・そう、僕は二人のことをまだよく知らない。

―――二人にとっての最適な仲直りの仕方が分からない。

―――だから僕は・・・。


ゆっくりと教室の隅にいる律のことを見た。 相変わらず静かに座っている。


―――僕は、律くんを頼るしかない。


意を決し律のもとへと歩いていく。 彼の前で立ち止まるが、視線を下に向けたまま勉強を続けていた。


「律くん、話があるんだけど」

「・・・」

「貴人と博人のことなんだ。 手を貸してくれないかな?」

「・・・」


やはり何を言っても大和には無反応だった。


―――負けちゃ・・・駄目だ。


怖気付きそうな心を何とか奮い立たせた。


「二人を仲直りさせる方法を教えてほしい! 律くんなら二人とずっと一緒にいるから、分かるんでしょ?」


大きな声でそう言う大和に、律は溜め息交じりで呟いた。


「あのさ。 二人の気持ちになって考えてみた?」

「二人の気持ち?」

「貴人と博人は本当に仲直りしたいと思ってんのか? もし思っていないなら、お前がしようとしていることは有難迷惑な行為だ」

「ッ・・・」

「あの二人のことを知ったような口で諭しても、余計刺激を与えるだけ。 お前は静かに見守ることもできないのかよ。 アイツらの気持ちを優先してやれ。 お前ごときが俺たちの前に出しゃばるな」


その言葉を聞いて大和は閃く。


―――そうか・・・ッ!

―――二人の気持ちを優先する、つまり二人の今の気持ちを聞いてみればいいんだ!

―――もし互いに仲直りする気があると分かれば、すぐに解決するはず!


「ありがとう律くん! 明日、早速試してみる!」

「試すって・・・。 おい、余計なことを」

「また明日ね!」


大和は走って教室を出ていった。 『大人しくしていろ』と言われたが、ただ黙って喧嘩を見守ることはできなかった。 やれることがあるならやりたい、その結果自分が嫌われてもいい。 

二人が仲直りしてくれるなら、自分を犠牲にしても構わない。


―――・・・二人が仲直りをしたら、僕はもう輪の中に入れないのか。


だがその気持ちとは裏腹に、やはり寂しく思う気持ちを隠すことはできなかった。



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