結んで開いて綻んで②
四年生になって一週間が経過した。 ようやく新しい生活に慣れてきた頃、相変わらず大和は貴人たちと仲よくしてもらっていた。
「おーい、大和ー! 一緒に体育館へ行こうぜ!」
昼休みになると早速とばかりに貴人が駆け寄ってくる。
「体育館? 何かあるの?」
「いや何も? ただ学年ごとに、体育館で遊べる曜日が決まってんだよ。 それが今日! だから行こうぜ!」
「行く!」
「あ、律も誘っていいよな?」
「もちろんだよ」
そう笑顔で答えた。 だが実際心では気まずく思っている。 一週間経ったが、まともに律と話したことがなかった。 下校時も四人は一緒に帰っているが、律はずっと黙ったままでいる。
明らかに大和は律に歓迎されていない雰囲気だったのだ。
―――本当に、僕が貴人たちの輪に入ってよかったのかな・・・。
そう思うようになっていた。 悩むくらいなら外れればいいとも思うが、貴人と博人は大和のことを歓迎してくれる。 だから彼らの気持ちにも応えたいため何も言い出せずにいた。
「律ー! 一緒に体育館へ行こうぜー」
「俺はいいよ。 貴人たちだけで行ってきたら?」
律は大和以外とだったら普通に話すということが悲しかった。 そう返事をして本を読み続ける律に貴人は言う。
「ったく! 律! 最近ノリが悪いんだから、今日くらいは付き合え!」
「今はそういう気分じゃないから」
「気分の問題じゃねぇよ! いつまで椅子とお友達なんだって聞いてんだ!」
「無理に身体を動かす必要もない」
「ずっと座っていると健康に悪いぞ!」
二人が言い合いになっているのを見て苦笑いを浮かべた。
「ま、まぁ二人共。 律くんも嫌がっているし、無理に誘わなくても・・・」
「でも律も、大切な友達だから」
「ッ、そ、そっか・・・」
冷静な博人の突っ込みに大和は何も言えず口を噤んだ。 すると博人の言葉を聞いたからなのか、溜め息をつきながら律は席を立つ。
「分かった、今日だけな。 早く体育館へ行くぞ」
「おッ、そうこなくっちゃ!」
ようやく乗り気になった律を見て嬉しそうに貴人は言った。 どうやら本気で喧嘩をしていなかったらしい。 律の後を三人は追いかけ、昼休みの間は四人で遊んだ。
相変わらず律は大和と目すら合わせてくれないが、輪の中にいることには文句を言わない。 それだけが救いだった。
だが自分には心を開いてくれていないのは分かり切っているため、何となく楽しめないまま時間を過ごしている。
―――・・・僕は、律くんにどう思われているんだろう。
ずっと考えていた。 確かめる術が見つかるわけもなく、無情にも昼休み終了のチャイムが鳴る。
「あー、楽しかったー! ボールは俺が返しておくよ」
「あ、僕も行く!」
博人は兄のことを慕っているようで、当然のように貴人の背を追った。 そうなると律との二人きりの気まずい時間になるのは当然だろう。
律も同じだったのか、二人の到着を待たずにここから離れようとした。
―――あ・・・。
咄嗟に引き止める。 気まずい時間ではあるが、二人きりになれたチャンスでもあった。
「あ、あの、律くん!」
「・・・」
律は黙ったまま立ち止まり振り返った。 あっさり止まってくれたことに挙動不審になってしまう。
「え、あ、その」
「・・・何?」
冷たく返された言葉だが、今はそれだけでも嬉しかった。 律が初めて自分に応えてくれたのだから。 これを機に少しでも律と距離を縮めようと笑顔を作る。
「あ、あのさ。 最近、困っていることとかない?」
「は?」
「いや、貴人や博人がいつも心配していたからさ。 律くんが元気ないって」
「・・・」
「だから、何かあったなら相談してよ。 話だけでも聞くからさ」
黙ったまま何かを考えていたようだが、ボソリと呟いた言葉は酷く冷たいものだった。
「・・・んだよ」
「え?」
「ムカつくんだよ、お前」
「ッ・・・」
キツく言われ言葉を失った。
「何ヘラヘラ笑ってんだよ。 その態度が一番ムカつくんだ」
そう言い切ると律は背を向け離れていった。 すれ違うように双子が戻ってくる。
「あれ、まだいたのか? 大和、次は移動教室だから早くしないと遅れるぞー」
「う、うん・・・」
「大和? どうしたの?」
博人に顔を覗き込まれ、慌てて首を振る。
「あ、ううん! 何でもないよ。 博人も行こう!」
無理に笑顔を作り教室へと駆けていった。
―――・・・僕は最初から、律くんに嫌われていたんだ。
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