結んで開いて綻んで
ゆーり。
結んで開いて綻んで①
「皆さん、初めまして。 神奈川から引っ越してきました。 今日からよろしくお願いします」
深く頭を下げ礼をする。 この春から小学校四年生になる大和(ヤマト)は、新しい地へと越していた。
―――今日から新しい友達を作るんだ。
―――どんな時でも笑顔でいなくちゃ。
前の学校では友達が多かった。 だから転校することは寂しかったが、親の仕事の都合なら仕方がない。 心を切り替え今ここに立っていた。 朝の会が終わると、早速二人の男子がやってきた。
「なぁなぁ! 俺たちと友達になろうぜ! 俺は貴人(タカト)で、こっちは博人(ヒロト)!」
笑顔で紹介してくる二人の顔は驚く程にそっくりだった。
「僕の名前は大和。 友達になってくれるなんて嬉しいよ! こちらこそ、よろしくね」
こちらも負けじと笑顔で返すと博人が言う。
「ぼ、僕と貴人は双子なんだ。 一応僕が弟」
双子となればそっくりなのも納得する。 すると貴斗が言った。
「まぁ、顔は似ていても性格は正反対だからさ。 迷ってもすぐに見分けがつくと思うぜ」
確かに口調や明るさが全然違った。 貴斗は元気いっぱいだが博人は大人しめだ。
「僕たちのこと、呼び捨てでいいからね」
「なら僕のことも大和でいいよ」
早速友達ができ幸先がいいことに素直に喜んでいると貴人が言った。
「もう一人、俺たちの仲のいい友達を紹介するよ。 おーい! 律(リツ)!」
廊下側に向かって大きな声で呼ぶ。 律と呼ばれる廊下側の列の最後尾にいる彼はこちらを一瞥した。 だがすぐに視線を落とし勉強を再開してしまう。
「ったく、気付いたんなら無視すんなよ。 博人、律を連れてきてくれ」
「う、うん」
そう言われ博人は律の席へ駆け寄った。 彼の袖を軽く引っ張り誘導しようとしている。 だが律は動こうともしない。 それを見て貴人は溜め息をついた。
「アイツ、本当はあんなんじゃないんだ。 もっと笑って楽しい奴なんだぜ」
「どこか今、体調が悪いとか・・・?」
「いや、そういうのはないと思うんだけど。 春休みに入ってからずっと、あんな調子なんだよ」
そう言ってもう一度律たちを見る。
「あー、駄目っぽいな。 大和、来いよ。 直接紹介してやる」
今度は貴人が大和の袖を引っ張り律の席へと誘導させた。 律の真ん前に立たされる。 すると律はそれに気付き少し視線を上げた。 その鋭く冷たい視線に怖気付きそうになる。
「コイツの名前は律。 律とは幼稚園からずっと一緒なんだ。 俺たち双子といつも仲よくしてくれる。 今はムスッとしているけど、根は悪くないぜ」
貴人は律に腕組みしながらそう言った。 律本人は嫌そうである。 引きつりそうな顔を何とか引き締め笑顔を作った。
「僕は大和。 律くん、よろしくね」
「・・・」
―――・・・あれ、嫌われるようなこと言っちゃった?
律は無反応だった。 律は何事もなかったかのように勉強をし始める。 その空気を感じ取ったのか慌てて貴人は言った。
「あー、律はこう見えてモテるんだぜ? 背は高いしクールだし。 だから一緒にいたら、大和もモテること間違いなしだ!」
「そ、そうなんだ! はは、それは凄いね」
その言葉に笑って返す。 するとギロリと律に睨まれた。
―――うッ・・・。
―――何だろう、この歓迎されていない感じ・・・。
引きつりそうな顔を何とか耐えていると急に律は席を立った。 そのままどこかへ行ってしまう。
「あ、おい律! どこへ行くんだよ!」
離れていく律を貴人は追いかける。 残された大和に博人は言った。
「ごめんね、律が・・・」
「あぁ、いや。 博人たちは何も悪くないし」
「ありがとう。 僕たちはいつも三人で行動しているんだ。 だから今日から大和も僕たちの輪に仲間入りだよ」
「え、本当!? 嬉しい! こちらこそありがとう!」
―――嬉しいな、仲間。
―――・・・でも律くんに好かれるように、もっと頑張らないとな。
そうして大和は三人と過ごすことが多くなった。
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