第25話 イリアの力

 セシリアが暴食を持っていると知り驚くイリア。


「厄災のギフトが人の身に……だと? バカな!」

「本当ですよ? なんならイリアさんのギフト……食べちゃいましょうか?」

「なにっ!?」


 セシリアの言葉にイリアが身構える。


「無理でしょ、セシリア」

「てへっ」

「は?」


 トーレスはセシリアの頭に軽く手刀を落とし突っ込む。セシリアはペロッと舌を出しおどけた。対してイリアはわけがわからないといった表情を浮かべていた。そこにトーレスが説明する。


「無理なんだよ、イリア」

「無理?」

「そう、ギフトを奪うためには対象の肉を一定以上食わないとダメなんだよ」

「肉を?」

「うん。セシリアに人の姿に似た魔族の肉が食べられるとも思えないし」

「さすがに人型の肉は食べられませんよ~」

「……それは違うぞ二人とも」

「「え?」」


 イリアは二人に間違いを伝えた。


「違う?」

「そうだ。何も肉を食わずとも対象を殺し手を添えるだけで良いのだ。そして手を添えながら暴食のギフトを発動させる。それだけだ」

「そ、そんなぁぁぁっ!? じゃあ魔物の肉を食べなくても……」

「そうだな。確かに食べる事で手に入れる方法もある。だがそれだと岩系の魔物やスケルトンなどのギフトは奪えんではないか」


 その説明を聞きトーレスはなるほどと納得した。そしてこれまで蜘蛛や蟻の魔物を我慢しながら食っていたセシリアは脱力し床に伏せた。


「ほう? その様子だとかなり際どい魔物を食ってきたみたいだなぁ~? くくくくっ、はははははっ!」

「しくしくしく……」


 今度はイリアがセシリアをからかい愉悦に浸っていた。


「と、とにかくさ。良かったじゃないかセシリア。違う方法を知れたんだからさ」

「トーレスさまぁぁぁ……」


 そこでイリアが口を開く。


「しかし……暴食を宿しているというのは真実だったか。となると……厄災の内一つはすでにおらんと言う事か」


 そう、厄災は七つある。その内の一つ暴食はベルゼブブが持っていた。ギフトは所有者が死ななければ次に宿らない。そして宿る対象は完全にランダムである。それが今目の前にあると言う事はすでにベルゼブブは死んでいると言う事になる。


「これは朗報と言っても良いのか……」

「違うの? 厄災が一つ減ってるなら喜ばしいと思うんだけど」

「それは違う。暴食は上位に食い込む厄災だ。何せいくらでもギフトを奪えるのだからな。そんなベルゼブブを倒した者がいるのだぞ? しかも先代魔王以降誰も侵入していない迷宮にだ。これがどう言う事かわからぬか?」


 トーレスは言われて気付いた。


「厄災同士で争っている?」

「近いが違う。おそらく厄災同士が組んでおる」

「な、なんだって!?」

「思うにベルゼブブは多数派に従わなかったのだろう。それ故に消されたと考えるのが自然だろう」


 嫌な予感が止まらない。


「な、なんのためにそんな……」

「さあの。厄災は元々神界を追放された者と聞く」

「神……界?」

「知らぬのか? 神界とは神の棲む世界の事で、この世界とは違う次元にある世界の事だ」

「そんな世界が……」


 ギフトは神の与えるもの。その神が確かに存在する世界があると知りトーレスは己の無知を恥じる。


「まぁ人間は自分達こそが支配者だと思っている節があるからの。我らから見れば愚か者の集まりよ」

「そうだよね。俺もここに送られるまであの世界で育った。そしてそれが間違いだと思いもしなかったんだ。今にして思えば聖神教団がいかに愚かかわかる。今の人間の世界は嫌なものを見ない、見えないようにさせられていたんだ。それがどうしてかはわからないけど」


 その疑問にイリアが推論を口にする。


「これは推論だが……教団は全てを知っておる可能性がある」

「え?」

「教団は自分らが生き残るために力ある者を集め、きたる厄災に備えているのではないか? 厄災は神の作りしこの世界を破壊し尽くし、神界に乗り込むつもりだ。教団は力なき者をここに送り、その者らがギフトを持つ魔物を狩る。教団にしてみたらゴミギフトで魔物では使いきれないレアギフトを手に入れる事ができるかもしれんのだ。それらは全ての真実を知っているとすれば成り立つ」

「……じゃあ教団は世界を救おうと?」

「いや、どうにか自分達だけでも助かるためだろうな。神にすら反抗しようとしている厄災ぞ? 例えば空間系ギフトでも手に入れば自分達は厄災からも逃げ切れる。まぁ、それは叶うはずもないがの」


 そう言いイリアはクスリと笑みを浮かべた。


「なぜ?」

「それは我がギフト【亜空間創造】を持っているからだ」

「えっ!?」

「我の創る亜空間はこことは違う次元に創造されるのだ。ほれ」

「わっ!?」


 イリアは手を伸ばし自身の横に空間を開いた。


「入ってみるか? トーレス」

「う、うん」


 トーレスはイリアの開いた空間に頭だけ入れてみた。


「わぁ……、凄い……!」


 空間は果てしなく広がり、空には太陽がある。地面には草木が生い茂り、小動物がもふもふと転がっていた。トーレスは空間から戻りイリアに言った。


「凄い! 空間の中に別の世界があった!」

「うむ。ここまで広げるのに数百年かかった。最初は何もない真っ白な空間でな。トーレスが見たものは全て我が一から創ったのだよ」

「凄いなぁ……、まるで神様みたいだ!」

「はっは。まぁ、創造主という意味では我は神だな」


 すると復活したセシリアがイリアに問い掛けた。


「あなたはなぜそんな世界を?」

「ふん、仲間を救うために決まっておる。例え厄災だろうがこの空間には入れん。我が操られでもせん限りはな」

「仲間のために数百年も……」

「ふん、我は長命種だからな。数百年なぞ何という事はない。魔族を救うためならやれる事はなんでもやるさ」


 そこでトーレスにある疑問が浮かぶ。


「ねぇイリア? 例えば皆が空間に入ってる時にイリアが死んじゃったらどうなるの?」

「……」


 イリアの目が泳ぐ。


「イリア?」

「えぇぇぇぇい! 二度と空間から出られなくなる! それだけだ!」

「それだけって……。一大事じゃないか」

「創造主とはそんなものなのだ!」


 何とか誤魔化そうとするイリアだった。 

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使えない認定されたギフトを授かった僕が、仲間を集めて追放した世界の支配者に抗います! 夜夢 @night_dreamer466

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