第24話 厄災について

 魔王城は山の中腹にある。トーレスは山に階段を作り、そ麓の森を切り開いて町を作った。現在魔族は魔王城内で暮らしており、これ以上増やせない状態でいる。それを踏まえ、トーレスは将来的に人間と魔族が同じ場所で暮らせるようにとかなり大規模な町とした。


「こんな感じかなぁ?」


 トーレスの作った町には住宅の他、商店街や飲食街、娯楽施設もあった。中でも一番力を入れたのは酒場。酒が入ると大抵のわだかまりは消える。まぁ、これは個人の酒癖にもよるが。だが忌憚なく意見を交える場として酒場は有用な場と言えよう。


 加えてリラクゼーション施設だ。トーレスは娯楽施設として温泉施設も作った。以前も拠点に風呂を求められたのでこちらにも用意したのである。ここも交流の場となればありがたい。


 トーレスの考えた町は人と魔の共存だ。そこに重点をおき、快適に暮らせるように考えぬいた。魔族も城の中ではなく陽を浴びて暮らせれば良いとトーレスは考慮した。中には陽の光が苦手な者もいるだろうが、それもイリアに話を聞いたところごく一部らしい。


 こうしてトーレスは町を完成させ、まず人間達の移住から開始した。そして四方に作った拠点には月に一度リュート達を向かわせる。新しい人間が追放されてきた時に救うためだ。だが悪人も送られてくるため、どうしても戦える人物でなければならない。今の所悪人と戦えるのはリュート、カトリーナの両名のみだ。セシリアは対人戦の経験はない。言えば戦えるだろうがなるべく彼女の手は汚させたくないとトーレスは思っていた。


 この他にもやる事はまだあるのでセシリアはそちらに回ってもらう事にした。


 トーレスはセシリアを呼び出し話をした。


「厄災……ですか」

「そう。この魔王城の地下に迷宮の入り口があるんだ。その下層には厄災といわれる者が存在しているんだよ。セシリアには俺とその対策に向かってもらいたくてね」


 トーレスに頼りにされたセシリアは歓喜した。


「わかりましたっ! 厄災の対処ですね? 向かうのは私とトーレス様ですか?」

「いや、二人で厄災と呼ばれる者に勝てるとは思えない。まだどんな者かも全くわかってないしね。一番詳しいのはイリアなんだけど……。今は連れて行けないんだ」

「なぜです?」


 そこでイリアがニマッと笑った。


「すまんの。我は懐妊中でなぁ」

「んなっ!?」

「卵に魔力を注がねばならんのでな、今は戦えんのだ」


 セシリアは悔しそうにイリアを睨む。


「そう睨むでない」

「うぅぅぅ……っ」


 女の戦いは継続中だった。そうとも知らずトーレスは話を進める。


「なので、城の事はノスフェラトゥに任せ、迷宮には俺とセシリア、そして魔族からコキュートスとメフィストフェレスで向かおうと思う」


 それにセシリアが尋ねる。


「その御二方は強いのですか?」

「強いよ。先代魔王を支えていた四人の内二人だからね」

「なるほど」

「じゃあ二人が来たらイリアから厄災について詳しい話を聞こうか」

「はい」


 それからしばらくし、イリア以外の三人が会議室に集まる。


「私が城の管理ですか。なるほど、適任ですね。さすがトーレス様、わかってらっしゃる」

「問題ないよね?」

「はい。全て私めにお任せ下さい」


 ノスフェラトゥが快諾してくれたので話を進める事にした。


「じゃあイリア、厄災について詳しく聞かせてもらえるかな?」

「うむ」


 イリアはゆっくりと口を開き厄災について語り始めた。


「まず、七つの厄災にとは魔族ではない。魔神といえばわかるか」

「「ま、魔神っ!?」」


 トーレスとセシリアが驚く。


「や、厄災とは神の事なのですか!?」

「神……ではない。元神だ。神界より追放され地上の民に厄災をもたらした者、それが厄災の正体なのだ」

「堕神ですか……」


 セシリアの頬を冷や汗がつたう。


「うむ。厄災はそれぞれを象徴するギフトを持つ。今からそれを説明していく。まずはギフト【傲慢】。このギフトは自己中心的考え方の究極系だ。己が一番強く尊いと思えば思うほどに力を増すらしい。これは我も聞いた話だが、ルシファーはその考えで己こそが主神に相応しいと神に反逆し神界を追放された。そして人魔大戦よりはるか昔、地上に追放されたルシファーは地上の生きとし生きる者全てを支配していたらしい」


 トーレスもセシリアも沈黙してしまった。無理もない。相手は全ての神を束ねる主神に反逆するほどの相手だ。怖じ気づいて当たり前だ。イリアは少し間をおき、話を進める。


「では……次にギフト【憤怒】。これを持つのは二番目に強いと言われている【サタン】だ。サタンは怒りを力に変える。相手に対する怒りや自分に対する怒り全てだ。その力に上限はない」


 コキュートスが言った。


「やりにくい相手だな」

「うむ。怒りを与えないように倒さねばならんからの。そして三番目はギフト【嫉妬】を持つ【レヴィアタン】だ。こいつは自分より優れている者や美しい者に対して力を発揮する。それが何なのかは判明していない」

「きひっ、ジェラシー……きひひっ」


 相変わらず不思議なメフィストフェレスはおいておこう。


「四番目はギフト【強欲】を【マモン】だ。このギフトの一番厄介な所は相手の持つ欲を刺激し、理性を失わせるという所だ。誰しも欲はあるだろう。マモンはそれを利用するのだ。セシリア辺りは一番相性が悪い相手だろうなぁ?」

「うぐ……」


 セシリアも自分で自分の事はよくわかっていたようで反論しなかった。


「五番目はギフト【淫蕩】を持つ【アスモデウス】だ。こいつは見つけ次第迷わず殺せ」

「なぜ?」

「うむ。こいつはな、いわば世の中の女全ての敵だ」


 それだけでセシリアは気付いたらしい。眉をしかめていた。だが、トーレスは今一わかっていないようだ。


「そんな危険な相手なの?」

「ふむ。トーレス、もし我がアスモデウスに遭遇した場合、そのギフトの力により身体を許してしまうかもしれん」

「えっ!?」

「アスモデウスの力とはそう言う意味だ。トーレス、もし我が汚されたらどう思う?」


 その問い掛けに対し、トーレスは恐ろしく冷たい声音でこう呟く。


「……許せない。どんな手を使ってでも消す」

「ふふっ、嬉しいのう。トーレスの愛を感じたぞ」

「あ、愛って……。あははは……」

「ちょっと、イチャイチャしないでもらえます!?」


 熱い視線を交わす二人を見てセシリアはお冠だった。


「こほん。話が逸れたな。では次にいこう。六番目はギフト【怠惰】を持つ【ベルフェゴール】だ」

「た、怠惰?」

「うむ。この怠惰はな、おそらくトーレスと一番相性が悪い」

「お、俺?」

「そうだ。ベルフェゴールの怠惰はな、相手のやる気を失わせるギフトなのだ。ここ最近忙しく働いておるトーレスは真っ先にかかってしまうだろう。さらに恐ろしいのはベルフェゴール自身もやる気がないと言う事だ。お互いにやる気がなくなり、永遠にベルフェゴールの手から抜け出せなくなるだろう」

「な、なんて恐ろしいんだ……」


 確かに最近働きづめのトーレスはのんびりした生活に憧れていた。トーレスはこの話を聞き注意しなければと心に刻んだ。


「さて、最後だ。最後はギフト【暴食】を持つ【ベルゼブブ】だ」

「「えっ!?」」

「ん? どうしたのだ?」


 トーレスとイリアは目を合わせて驚いた。


「ギフト【暴食】……?」

「イ、イリア? それって本当に?」

「何がだ?」


 セシリアがイリアに言った。


「……ギフト【暴食】は……今私が持っているのです」

「な、なにっ!?」


 セシリアの言葉に驚くイリアだった。

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