前のエピソード――第22話再会

　人間達を連れて戻ったトーレスはまずイリアに人間達の面通しを行った。

「イリア、この人達をここに置いてもいいかな？」

　それを聞いたイリアはこう言った。

「構わんよ。決めるのは魔王であるトーレスだ。しかし……城の中はちょっとな。中には家族や友を人間に殺された魔族もおる。魔王の言う事なら反抗はせぬだろうが良い気はしないだろう」

「うん、それはわかってる。だから城の外に町を作ろうかなって」

「ほう？　それは良いな」

「町を作って魔族と人間が交流できる場にしようかなってね。今はまだお互いに警戒してるだろうし、町ができて害がないってお互いに知ったらさ、先代が理想としてた世界の本当の姿に近づくんじゃないかなって思ったんだよ」

　トーレスはまずこのパンドラに理想郷を作ろうとしていた。多種族が幸せに暮らせるというモデルケースを構築し、可能であると証明してみせるつもりだった。

「さすがトーレスだ。全て任せる。好きなようにやってみるが良い」

「ありがとう、イリア」

　そんな二人を睨む人物がいた。イリアがその人物に話し掛ける。

「なにかな？」

「っ！　あなたが私のトーレス様をっ！」

「ん？　私の？　ああ、お前、トーレスの事が好きだったのか？」

「んなっ！？」

　セシリアの顔が真っ赤に染まる。

「そうかそうか。まぁ、トーレスは良い男だったからな。いや、魔族になりさらに男ぶりに磨きがかかったのだが」

「そ、それは認めますけどっ！　以前は優しさが前面に出ていましたが今はワイルド……じゃなくて！　よくもトーレス様を穢してくれましたわねっ！」

「穢す？　ああ、初めてを奪った事を言っているのか？　ふむ……。お前、名は？」

「セシリアですわっ！」

「セシリアか、ふむ。こちらに来い」

「はぁ？」

　セシリアはイリアに近づく。それから二人は少し離れた場所へと移動し、何やら話をする。セシリアの表情が千変万化しているが何の話をしているのだろうか。

　しばらくして二人が戻る。

「セシリア？」

「ひ、ひゃいっ！？(ま、まままままともに顔が見られませんわっ！　ま、まさかトーレス様にそんな……あぁぁ、羨ましいっ！)」

「だ、大丈夫？　顔色がかなり変だけど……」

「だ、だだだ大丈夫ですわっ！　たとえトーレス様のが大蛇でも私は構いませんっ！」

「何言ってんのっ！？」

「「「大蛇？？」」」

　アゼリア、ミューレ、カトリーナが首を傾げる。リュートは静観し、シュウは何の事か理解したようだ。

「ああ、確かに。一緒に風呂入った時見たからなぁ。それでいやぁ……リュートのも……」

「それくらいにしておけ。トーレス様が困っているではないか」

　トーレスはどうしたものかと頭を悩ませていた。そんなトーレスにシュウが言った。

「まぁ、別に嫁さんが一人じゃなきゃならねぇって法律はねぇしな」

「え？］

「ちゃんと養えんなら嫁さんは何人いても良いんだよ。俺達の国の王なんて十人以上嫁がいるんだぜ？　まぁ、一人に絞るのも硬派だけどよ、それで慕う奴を泣かせちゃ男じゃねぇ。トーレスよぉ、男は甲斐性だぜっ！」

「シュウ……」

　シュウはそう言い親指を立てながら今日一番の笑顔でそう言った。トーレスはそれに呆れていた。

「そんな甲斐性いらないよ。一度に複数の女性と付き合うなんて不誠実じゃないか」

　それにイリアが意見した。

「そんな事はないぞ？」

「え？」

「英雄色を好むと言うしのう。お前が望むなら側室はいくら増やしても構わぬぞ？　ただし、正室は我だがな」

「ほ、本気で言ってるの！？」

「うむ。そこの男の言う通り、男は甲斐性よ。己を慕う女を幸せに出来んで民を幸せに出来るはずもなかろう。一度真剣にそこな女と向き合ってみるが良い」

　そう言い、イリアはその場から去っていった。

「トーレス様……」

「……はぁぁ。柄じゃないんだよなぁ。セシリア」

「は、はははははいっ！」

「少し考える時間が欲しい。俺達にはまだまだやらなきゃいけない事が沢山あるだろう？」

「……はい」

「それらを全て片付けて落ち着いたらゆっくり話し合おう。それじゃダメかな？」

　セシリアはゆっくりと赤くなった顔を上げる。

「……はいっ。私は構いませんっ！　自分よりも民を優先する、私はそんなトーレス様だからこそ好きになったのですから」

「ごめんね。ちゃんと考えるからさ」

「は、はいっ！」

　こうして答えを一時保留にし、トーレスは魔王城の前に広がる森の前に移動する。

「リュート、今からここに町を作る。その町の長を君に任せたい。やってくれるかな？」

「俺が長ですか？　俺よりはセシリアの方が……」

「いや、リュートじゃなきゃダメだ。俺がいない間皆をまとめていたのは君だろ？　俺は俺がいない間に来た人間の事は知らないし、セシリアはその……も、もしかしたらつ、妻になるかもしれないからさ」

「なるほど。それが理由ならば納得しましょう。何よりトーレス様からの命ですからな。慎んでお受け致します」

「ありがとう、リュート。じゃあ……町を作っちゃおうか」

　トーレスは進化したギフトを惜しみなく使い町を作っていく。下層の強力な魔物のいなくなった森は巨大な城下町となった。さらにトーレスは空中に浮かび上がり、南の拠点と城下町の間に外壁付きの街道を通す。さらに東と西、北にも街道を通し、今後追放されてくるだろう者達を迎える準備を整える。自国の教会は押さえたが未だ他国は手付かずのままだ。これからも追放者はやってくるだろう。

「な、なんて力だ……。これが魔族となったトーレス様の……。は、ははっ……。聖神教団はもう終わりだな。さすがトーレス様だ」

「なんつーかさぁ、魔族になって何かから解放されたみたいだな。前はどこか抜けてたけどよ、今のトーレスは芯が通ってるって気がするわ」

「さすがトーレス様っ！　素晴らしい御力ですわっ！」

　リュート達が空を見上げる中、トーレスはパンドラに楽園となる町を作りあげていくのだった。