第21話 これから

 扉を開くとイリアがまだそこにいた。


「ん? どうしたトーレスよ。まだ入ったばかりではないか。忘れ物か?」

「え? いや、もう終わったんだけど」

「はぁ? 何も起きなかったのか? ちゃんと玉座に座ったか?」

「うん。玉座に座ったら……」


 トーレスは中で起きた事をイリアに話した。


「……あのボケ……! 誰が老婆だっ!!」

「いや、そこ!?」


 話の中でイリアが唯一突っ込んだ場所がそこだった。


「そこしかなかろうっ! 他は全て知っておるわ! まったく……。それで? ちゃんと認められたのだな?」

「うん、魔族達を頼まれたよ。あと、地下の迷宮の話も聞いた」

「そうか。では全て終了知ったお前に問う。お前はこれから何を成す。答えてみよ」


 イリアの質問に対しトーレスはこう答えた。


「俺は……そうですね。まず人間を味方にします」

「ふむ」

「この島には定期的に人間が送られてきています。その人達を仲間に加え、迷宮を攻略していきます」

「……人間にそこまでの力があると?」

「可能性はありますよ。これは秘密ですが、ギフトは進化するんですよ」

「なっ!?」


 イリアの表情が驚きに変わった。


「ギフトが進化だと? 長い間生きてきたがそんな話は聞いた事も……」

「本当です。俺の創造魔法、進化前は鳥獣戯画でしたから」

「なにっ!? やはりか! 似ていると思った我の勘は外れてはいなかったのだな」

「ですね。とまぁ、どんなギフトでも進化の可能性があります。ここに送られてくる人間は犯罪者か役立たずと烙印を押された者のみです。先代も言っていたように、魔族と人間はそろそろ向き合うべきなんだと思いますよ」

「向き合う……か。魔族の中には人間に親を奪われた者もおる。簡単にはいかんぞ?」

「それでもやらなきゃ。先代の意志を託されたんですからね」

「……そうか。ならば好きにせい。人間の事はお前に任せる」

「うん。任せてよ。でもその前に……迷宮から魔物が出て行かないようにしないと。何か手はないかな?」


 それに対しイリアが答える。


「ふむ。あれは我が張った転移魔法陣だからな。できない事もない」

「転移魔法陣?」

「うむ。インプット側が迷宮にあり、アウトプット側が森にあるのだ」

「なるほどなるほど。ねぇ、そのアウトプット側ってさ、場所を変える事できる?」

「可能だ。新しい場所に魔法陣を敷き古い方を消せば良いだけだからな」

「そっかそっか。ならさ、ちょっと考えた事あるんだけど……」


 トーレスは自分の考えをイリアに耳打ちする。


「ほ~う、それは良いな! よし、下層の魔法陣の出口だけそこに設置しようじゃないか」

「良かった、じゃあ行こうか」


 トーレスはイリアと手を繋ぐ。


「行くよ、【創造魔法:テレポート】!」


 この数日後のギャレス王国のとある教会。


「さあ、入りなさい。儀式を始めますよ」

「はいっ!」


 聖神教団の司祭がいつものように儀式の間へと繋がる扉を開く。


》》

「なっ!?」


 司祭が扉を開くと中には大型の魔物がひしめいていた。司祭は驚き腰を抜かす。


「ま、まままま魔物っ!? 魔物がなんでっ!?」

「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!」


 儀式を受けにきた若者は室内にいた魔物の群れを見た瞬間、怖さのあまり股を濡らし逃亡した。司祭は腰を抜かしながら聖騎士に向かい叫ぶ。


「は、早くなんとかしなさいっ! あんなのが町にでも出たらっ!!」

「「「「はっ!!」」」」


 幸い出口は狭い。そして教会にはギフトを授かった者が暴れても良いように【破壊不能】が付与されている。聖騎士達は魔物が出て行かないように入り口を堅め、出てきた小型の魔物から殲滅していく手段に出る。


「ぐあぁぁぁぁぁぁっ!」

「く、くそっ! なんだこの魔物っ! 司祭様っ! 本部に応援を! 早くっ!!」

「わ、わかった! 一匹も逃がすでないぞっ!」


 騎士達は握った剣を構える。


「くっ……! ここが死に場所になるか……。皆、応援の部隊が到着するまでこの場をなんとしても死守するぞっ!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」


 小型の魔物が次々と溢れ出す。


「くぅぅぅっ! アンデットかっ! これは魔物ではないっ! 中にいるリッチが産み出している! これを倒してもキリがないぞっ!」

「隊長っ! ならばどうしますかっ!」

「応援の到着を待つしか……! 聖女の【祝福】ならばリッチにも効く! それまで頑張るしかないっ!」


 アンデットの他にも魔物はいる。


「ケ、ケル……ベロス……」

「ア、アークデーモンまで……」


 騎士達の顔が真っ青になる。それもそのはずだ、出てくる魔物は全てSクラスと言われる魔物だ。たまに飛べる魔物が大陸に現れる事はあるが、飛べない魔物は伝承でしか伝わっていない。聖騎士達は今その伝承されている魔物と対峙しているのだ。恐れないわけがない。


 トーレスは教会の外からその光景を見ていた。


「教会って壊れないようになってたんだ」

「あれでは大型の魔物は出られんな」

「イリア、小型の魔物だけ転移させられるようにできる?」

「ふむ。設置場所を変えたらできるぞ。小部屋とか狭い通路とかの」

「ならそれで。あれじゃ経験値与えるだけだし」

「ふむ。しかし……お前がこんな手を使うとはなぁ。なかなか悪くなったのう」


 トーレスは首をふった。


「違うよ。こうすれば皆魔物に集中して儀式なんてどうでも良くなるでしょ? そしたら追放される人も減るかと思ってね」

「なるほど。怠惰な人間を忙しくさせる計画か。まぁ、邪魔者も消せるし良い手だと思うぞ」

「うん。これで町の人達に被害を出したら聖神教団の株も下がると思うし。まぁ、俺ならすぐに町を捨ててここにアジトを作るけどね。じゃ帰ろうか」

「うむ」


 この数日後、聖神教団は町の人間を他の場所に移し、町に聖騎士団を詰めさせた。世界中から戦える聖騎士を集め、日々溢れ出てくる魔物と戦わせる。その戦いは多くの犠牲を伴い、役立たずと呼ばれる者達のために船を出す余裕もなくなっていった。ギフトは死ななければ次の者には移らない。役立たずと言われる者達はこの機に逃げ出した。


 こうしてトーレスの思惑通りに事が運んでいく。そしてパンドラに戻ったトーレスは次の行動に出る。


「なんか久しぶりだなぁ~。皆元気かな」


 トーレスは拠点の門をノックするのだった。

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