第20話 継承
ノスフェラトゥはイリアに問い詰める。
「先代のギフトに似たギフトですと?」
「そうだ」
「……あれは知識のある者にしか使いこなせない。長命種である魔族だから使えるのですよ。あなたも良く知っているはずです」
「確かにな。だが、トーレスの今着ている服、それは奴が自分で作り出したものだ」
「それくらいなら誰でもできるでしょう」
そう言うとノスフェラトゥは懐からメダルを一枚取り出すし、テーブルに置く。
「これは私が先代からいただいた魔王軍幹部の証であるメダルです。似た力があると言うならこれと同じものを創り出してみなさい。ああ、ちなみにギフト【複製】ではコピーできませんよ。そして【模造】も同じものとは認めません」
ノスフェラトゥは自信満々にそう言った。
「は、はぁ……」
トーレスはとりあえずメダルを手に取る。そしてどうしたものかと考え、ギフトを使う。
(まずは【創造魔法:成分調査】だ)
まず最初に材質を知る事から始めた。調査した結果、メダルはオリハルコン製、重さは666グラムということがわかった。
(オリハルコン製かぁ。ならリュートに渡した剣と同じ材質を思い浮かべて……と)
そしてメダルをあらゆる角度から眺め、デザインを頭の中で固めていく。
「なるほど。では……【クラフト】!」
トーレスはテーブルの上に手を向け【創造魔法:クラフト】を使う。これが鳥獣戯画の進化した姿だ。
「な、なぁっ!?」
テーブルの上に並ぶ全く同じメダル。ノスフェラトゥはメダルを両手に持ち比べて見た。
「そ、そんな……! これはこの世に二つとない先代からいただいたメダル! 材質も重さもわずかな傷まで寸分たがわぬメダルだっ……! そんなバカな……」
「これがトーレスの力よ。我が降りた理由がわかったか?」
「む、むぅ……」
そこにコキュートスが割り込む。
「ふむ。どうやったかは知らぬがそのギフトは認めてやろう。だが……武力はどうだ。トーレスと言ったな、私と立ち合え。なんでもありの一本勝負だ」
「わ、わかった」
まだ言葉遣いに慣れないトーレスだった。
そして場所を地下へと移動し、トーレスとコキュートスが対峙する。
「準備は良いか?」
「いつでも」
「うむ」
コキュートスは六本の腕に片刃の剣を握り構える。最低でも六回は攻撃がとんでくるだろう。対するトーレスは無手だ。足を肩幅に開き真っ直ぐコキュートスを見ながら合図を待つ。
審判はイリアだ。中央に立ち片腕を上げる。
「では……始めっ!!」
「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 六刀流奥義! 回天刀!!」
開始の合図と共に物凄い速さでコキュートスが近付いてくる。
「よしっ! 【創造魔法:遅延】!!」
「う……お……っ!?」
突如コキュートスの速度がまるで止まっているかのようにガクンッと落ちた。
「効いた! よし、ここから……【創造魔法:雷槍】!」
トーレスの指先から雷が走る。
「がぁぁぁっ! ぐはぁっ! ぬぅおぉぉぉぉっ!」
雷の槍はコキュートスの両肩と片膝を貫いた。肩を貫かれたコキュートスの腕は機能しなくなり、腕はだらりと落ち、膝を地につく。トーレスはコキュートスの額に剣を向ける。
「俺の勝ちで良いかな?」
「……う……む。私の負けだ」
それを見たノスフェラトゥが驚く。
「あ、あのコキュートスが何もできずに負けた……? な、なんなのだ奴は……!」
「キヒッ……強いなぁ~……」
それまで黙っていたメフィストフェレスがゆらりと立ち上がる。そしてトーレスに声を掛けた。
「キヒッ、ツギはボクとヤろうよ。イイでしょ?」
「良いですよ。何で勝負します?」
そう問い掛けるとメフィストフェレスは地面に手を向けブツブツと何やら呟いた。すると地面に魔方陣が浮かび、そこからスケルトンが現れた。
「キヒッ、こいつでゲームしよ」
「ゲーム?」
「そう、ゲーム。ボクとアソボ……キヒヒッ」
こいつだけはどうにもわからない。トーレスが困惑しているとノスフェラトゥはルールを説明していく。
「こいつはスケルトン。コアを破壊しない限り何度でも復活するボクの玩具さ。ルールは簡単だよ、コアを破壊する以外の方法でこいつを倒せたら君の勝ち。倒せなったら……君の骨をもらう。キヒッ……やるかい?」
「コアを破壊しないでスケルトンを倒す……わかった。やろう」
「キヒヒヒヒッ! じゃあ……スタートだぁ~。コアを破壊した瞬間君の負けだよ」
トーレスはスケルトンを見る。
「何の変哲もない魔物……。コアを破壊する以外で倒すのかぁ……」
アンデッド系の魔物は心臓の代わりにこのコアと呼ばれる核を持っている。最も簡単に倒す方法がコアを破壊する事だ。特にこのスケルトンタイプはコアが魔力を生み形作っている。
「あの……とりあえず色々試して良いかな?」
「キヒッ……どうぞ」
トーレスはいくつか方法を考えていた。
「まず最初に……【創造魔法:ディメンションホール】」
「……え?」
トーレスはスケルトンの頭上に小さな次元ホールを生み出した。するとスケルトンはその穴に吸い込まれていき、消えた。
「い、今のは……?」
「あ、はい。俺の魔法でスケルトンを次元の彼方に捨てました。一応コアは傷つけてませんが」
「ズ……ズルい! 生死の確認ができないじゃないか!」
「ですよねぇ……」
「も、もう一度だ! 今のはナシ!」
再びスケルトンが現れる。
「ん~……じゃあ……【創造魔法:
「はぁっ!?」
今度は灰になりコアだけ残して消えた。
「ま、魔族が聖属性魔法!? しかも……今のは勇者と並ぶギフト……聖女の【祝福】じゃないか!」
「あ、いや。違いますよ。今のは俺が作った魔法です。物語とかで聖女様がアンデッドを祝福して~みたいに書いていたのを思い出したので」
メフィストフェレスはアンデッド使いだ。今の技は天敵とも言える。
「キヒッ……。ま、負け負け。ボクの負けだよっ! 魔族の癖に聖属性を使えるなんてズルだ! フンッ!」
そう吐き捨てメフィストフェレスは隅っこに移動し拗ねた。
「はっはっは。これで次の魔王は我の夫であるトーレスに決まりだな。ノスフェラトゥ、コキュートス、メフィストフェレス、異論ないな?」
「「「……ああ」」」
ついに三人の幹部にも認められてしまったトーレス。こうして運命の歯車は確実に回り始めるのであった。
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