第16話 危機
単独行動を許可されたトーレスはシュウから聞いた追放者が流れ着く二つ目のポイントを目指し移動していた。
《《ガァァァァァァッ!!》》
「ちょぉぉぉぉぉぉっ! なんでこんな魔物いるのっ!? しかも強いしぃぃぃぃぃっ!」
現在地点、トーレスは極度の方向音痴であり、東に向かうはずが何故か北上していた。つまり、単独で魔王城がある中央へと向かっていたのである。
「こっ……の! 【サンダーレイン】!!」
《《ギアァァァァァァァス!!》》
「はぁっ……はぁっ! や、やっと逃げ切れた……。なんなんだよもうっ! 話が全然違うじゃないか!」
違うのは道のりである。
トーレスは単独でAクラスの魔物の群れを相手にし、森をさ迷っていた。おかげでレベルも有り得ないくらいに上がり、身体能力も爆発的に向上していた。
《グルルルル……》
「っ!? こ、今度はドラゴン!? み、見つかる前に逃げっ……」
《ゴアァァァァァァッ!!》
気配も消してないトーレスは簡単に見つかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁんっ! 一人で~なんて格好つけなきゃ良かったぁぁぁぁぁぁぁっ!」
これまで戦闘の面で役に立てなかったトーレスはとにかく皆のレベルに追い付きたく、単独行動を望んだのである。その結果がこれだ。
「ここどこぉぉぉっ! 海はっ!? いくら歩いても海がないよぉぉぉっ! わっ、また魔物っ!? どうなってんのさぁぁぁぁぁっ!?」
そんなトーレスの前に人に似た何かが現れた。
「……人間か。こんな所で何をしている」
「え?」
突如現れた人間に似たそれは片手で魔物を制しトーレスに言葉を投げ掛けてきた。
「もう一度だけ聞くぞ。人間、こんな所で何をしている」
「あ……その……」
トーレスに緊張が走る。話し掛けてくると言う事は話が通じると言う事だ。トーレスは言葉を選び、ここにいる理由を口にした。
「あ……その……。ぼ、僕はトーレスです! その……南の海岸沿いに拠点を築いてまして……」
「……ほう。人間がこの島に拠点とな」
目の前の異形が少し不機嫌になる。
「そ、そのっ! 僕達は大陸で役立たず扱いされて……! こ、ここで生きていくしかないんですっ!」
「そんな理由は知らん。ここは我ら魔族に残された最後の領地だ。そんな領地に人間が住む? 貴様らは我らから魔王様を奪っておき……さらに最後の地まで奪おうと言うのかぁぁぁぁぁぁっ!」
「ち、違いますぅぅぅぅぅぅぅっ!」
拠点と言う言葉が気に触ったらしい。目の前の魔族は怒りに震えていた。
「何が違うっ! 役立たずだ? 役立たずが一人でこんな魔王城付近まで来れるかっ!」
「ま、迷ったんですよぉぉぉぉっ! 道に迷ったんですっ!」
「……は? な、なに?」
魔族は一瞬呆気にとられていた。
「だから……迷ったんですよ……。本当は南の拠点から東の海岸に向かう予定だったんです……」
「東ってお前……。こっちは北だ。どう間違えば東と北を間違う」
「さ、さぁ……。と、とにかくですね、僕達は魔族の皆さんと争うつもりなんてないんですっ!」
「……争うつもりがない? 魔族を神の敵と称しここまで追い詰めた人間が? 争うつもりがないから見逃せと?」
「は、はい……」
魔族は拳を握り締める。
「あぁ、舐められているのだな。よ~し、やってやろうじゃないか。我に勝てたら見逃してやろうじゃないか。【魔化】!!」
「うぅぅぅぅっ!」
目の前の魔族は人に似た姿から本来の姿へと戻る。頭からは小さな蝙蝠のような羽、そして背中からも同様の羽が左右に開き、腰の少し下からは細い尻尾が伸びる。
「お、女の人っ!?」
「ほう、余裕だな。女だからなんだ、戦場に男も女も関係ない。あるのは命の奪い合いのみよっ! さあ、我が爪で切り裂いてやるわっ!」
「くるっ!」
魔族は一瞬でトーレスとの距離を詰め両腕を振りかぶる。そして左右時間差でトーレスに鋭く輝く爪が襲い掛かってきた。
「当たったら死ぬっ! えぇいっ! 【パーフェクトシールド】!!」
「なっ!?」
爪がトーレスに当たる寸前、トーレスのと爪の間に不可視の盾が発生し、魔族の爪を全て砕いた。
「わ、我の爪がっ! き、貴様ぁぁぁっ! その力っ! やはり我らを滅ぼしに来た勇者っ! 我の目に狂いはなかった!! 絶対に見逃すわけにはいかんっ! 仲間と合流する前に……その命! もらい受けるっ!!」
「狂いまくりだよっ!? だぁぁぁぁぁっ!?」
魔族の爪が瞬時に再生し、樹を飛び交いながら時折フェイントを織り交ぜトーレスに襲い掛かる。トーレスはピンポイントで防ぐ事は無理だと判断し、身体全体を【パーフェクトシールド】で覆った。
「く、くそっ! 攻撃が届かんっ! こうなれば我のギフトを使うしか……!」
「ギフト? な、なんだろ……なんかヤバい気がする!」
「もう遅いっ! 吸血姫にまで登り詰めた我のギフトを食らえっ! 【
「……あ」
突然意識を持っていかれた。トーレスは自分の身体が自分のものではない感覚に陥っていた。
「くっ……。まさかこれを使わせられるとは……。こいつは危険だ。ここで殺し……いや、待てよ」
魔族は棒立ちで動けなくなったトーレスを見て何やら考える。
「そうか、何も殺さずとも良い。喜べ人間。今からお前を我の眷属にしてやろう。我の名は吸血姫【イリア・ヴァンピール】。これよりお前の主となる者の名だ。よ~く覚えておけ」
そう言うと、イリアは牙を生やしトーレスの首筋に噛みつくのだった。
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