第14話 ギフトの進化

 調査から戻ったリュートとセシリアは眠るトーレスを見て慌てふためいていた。


「な、何があった! いつから眠っているっ!」

「あぁぁぁっ! トーレス様っ! トーレスさまぁぁぁぁっ!!」


 そんな二人にアゼリアが説明する。


「慌てすぎよ。急に眠ったのが一週間前よ。それからは何をしても起きないわ」


 そのセリフにセシリアが反応した。


「……何を……しても……? アゼリアさん、いったい何をされたのかしら?」

「……それは言えないねぇ。でもまぁ……傷をつけたりとかはしてないから安心してちょうだい」

「い、言えないような事をしたのですかぁぁぁぁっ!」

「落ち着けセシリア。アゼリア、何がどうなってこうなった。魔物の攻撃か?」

「いえ。一緒に作業していた人達いわく、突然眠るように倒れたらしいの。近くに魔物もいなかったし、誰かから何かをされた形跡もなかったわ。原因不明の昏睡状態ってところかしら」

「ふ~む……。魔物からの攻撃ではないか。しかし……ただ眠っているだけの様にも見えるが、それだとおかしいな。一週間も眠り続けている割には血色も良い。まるで今眠ったばかりの様にも見える」

「そうなのよねぇ……。だからあんまり心配はしてないわ」

「わかった。トーレス様が起きるまでは拠点で守りを固めるとしよう」


 その頃トーレスの意識は不思議な空間にいた。


《ここは……真っ白な何もないとこみたいだけど……》

《ほっほ、ここはお主の精神世界じゃよ》

《っ!? だれっ!?》


 トーレスは声の聞こえた方を振り向く。そこには白い服をまとい、片手に杖を持った老人が立っていた。


《ワシは神じゃ。そうじゃな、今はまだ名を伏せておこう。今からお主に何が起こったか説明する。心の準備は良いか?》

《か、神様っ!? は、ははぁぁっ!》


 トーレスは神に向かい頭を下げ平伏した。神はそんなトーレスを見ながら蓄えた髭を弄る。


《ふむ。まずはお主に与えられたギフト、【鳥獣戯画】についてじゃ》

《は、はいっ!》

《お主に与えられた【鳥獣戯画】はの、進化するギフトなのじゃ》

《し、進化……ですか》

《うむ。ギフトを正しい事に使えば使うほどお主の鳥獣戯画は進化を遂げていく。今の鳥獣戯画じゃと命あるものは目的を果たしたら消えるじゃろう?》

《は、はい》

《それはレベルが足りぬからじゃ。今お主の鳥獣戯画はレベル1じゃ。そして、この眠りから覚めるとレベル2となっておるじゃろう》

《レベル2……ですか》

《うむ。最終進化レベルは5じゃ。まぁ、そこまで行く前に寿命がくるじゃろうがな。このギフトは創世記から受け継がれているギフトでの、今までの使い手は私利私欲にばかり使っておったからレベルが上がっておらんかったのじゃ。レベル2へと上げた者は数名いたがの。受け継いだ者が悪事に使うと下がる仕組みとなっておるのじゃ》


 トーレスは神の言葉をしっかりと心に刻んでいた。


《悪事に使えば下がる……》

《そうじゃ。そもそもギフトとは他人のために使う力じゃ。今の世界は歪みきっておる。誰もが自分の欲のために力を使い私腹を肥やしている。ワシは嘆かわしいぞ……》

《も、もうしわけありませんっ!》

《いや、お主とその周囲の者は違うぞ。お互いに助け合い与えられたギフトを正しく使っておる》


 トーレスは神に尋ねた。


《あの、レベル2へと進化したら何ができるようになるのでしょうか》

《うむ。そうじゃな、まず……魔法を創造できるようになる》

《ま、魔法をっ!?》

《うむ。しかも既存の魔法ではない。既存の魔法は魔力を使うが、お主が創造した魔法は違う理にある。故にギフトと同じく魔力を消費せん》

《す……すごい……》

《それがギフトの進化というものじゃよ。ここ数千年は進化に至った者はおらんかった。いや、一人だけいたな。まぁ、今それは良い。今から使い方を説明してやろう。しっかり学んで行くと良い》

《は、はいっ!》


 そう返事を返すと神の姿が消え、代わりに真っ白な獣がトーレスの前に姿を現した。


《わわっ!?》

《我は神獣フェンリル。今から主に【創造魔法】の使い方を説明する。心して聞け》


 ここまでが一週間前の話だ。それからトーレスはリュート達が戻るまでの一週間、精神世界でフェンリルとひたすら修行を重ねていた。


《違う。そうではない。詠唱はいらんと何度言えばわかる》

《うぅ、難しい……。詠唱しないとイメージが固まらないんですよぉ……》

《慣れろ。それで魔物と戦おうなど夢のまた夢だ。魔物と戦うためには瞬時に指先から魔法を放てるようにならなくては話にもならん》

《ひぇぇぇぇ……っ》


 フェンリルの指導は鬼のようだった。だが不思議な事にここでは疲れる事もないし、腹も減らない。そして眠気もない。そのためか、もう何時間訓練しているか自分ではわからなくなっていた。


 そして訓練を開始して二週間。つまりリュート達が拠点に戻ってきてから一週間経過した頃、トーレスは精神世界で【創造魔法】を極めた。


《【フレイムエッジ】!!》


 燃え盛る炎の刃が幾重にも宙に舞い、標的を切り刻む。


《うむ。まぁまぁだな。だいぶ慣れたようだ》

《は、はいっ!》

《よし、後は現実世界でひたすら訓練だ。良いか、決して私欲のために力を使うなよ》

《はいっ!》

《うむ。では……また会おう》

《あ……》


 そこでトーレスの意識は暗転し、遠くから声が聞こえるようになった。


「……様! トーレス様っ!」

「う……あ……、り、リュー……げほっげほっ!」

「おぉぉぉぉぉ……! トーレス様がお目覚めに!! 誰か! 誰か水をっ!」


 トーレスはリュートに背中を支えられ、渇いた喉をゆっくりと潤していくのだった。 

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