第13話 パンドラ調査

 男達の訓練もだいぶ進み、拠点周囲の魔物相手なら危なげなく戦えるまでに成長した事で追放者達は次の段階に足を進める事にした。


「調査隊?」

「はい」


 そう提案してきたのはリュートとカトリーナだ。今や二人ともこの拠点になくてはならない貴重な人材だ。その二人からトーレスにそう提案があった。


「男達の訓練も済み、この辺りでの安全は確保できたと思われます。ですが……この島は未だ未知な場所も多く、どこに危険が潜んでいるか不明です。黒犬のような悪人が潜んでいるやもしれませんし、何より魔王を殺されたままの魔族が大人しくしたままな事が不気味です。トーレス様、俺とカトリーナ、セシリアとシュウで調査に向かう許可を」


 その申し出はありがたいが、トーレスは浮かない表情だ。


「危険だよ……。このまま少しずつ拠点を拡張していくのじゃだめなの?」

「それでは時間がかかりすぎるのです。俺達は今二十歳、全力で戦える時間もそう長くはないでしょう。魔法使いなら別として、俺達は身体が資本なので……」

「トーレス様、私からもお願いいたしますっ」

「セシリアまで……」


 セシリアは前に出てこう宣言した。


「私達は追放された者達の希望でありたいのです。きっとこの先も追放は続いていくでしょう。そして今私達が救えているのはこの付近に現れる国の追放者のみです。こうしている間にもどこかに追放されてきた者がおり、その命を奪われているかもしれません。私達にはトーレス様がいたからこそ、こうして平穏な日々を送る事ができています。ですが他の者に希望などありません。私達はそんな者達に手を差しのべたいのです」

「セシリア……」


 トーレスはセシリアの熱い言葉に心をうたれていた。そしてリュートの言う時間がないと言う事もよくわかっている。戦闘系のギフトを持つ者はスキルで戦う者よりも圧倒的に有利だ。スキルは身体能力で威力が変わるがギフトは違う。例え年老いたとしても技が衰える事がない。だから聖神教団は戦闘系ギフトの持ち主を集め優遇する。それは大陸の人間ならば誰もが知っている話だ。


「……わかった。でも無茶は禁止だよ。危ないと思ったらすぐに戻る事。それと、魔族を発見したら必ず報告に戻る事。それだけは守って欲しい」

「はっ!」


 こうして拠点から四人の調査隊が島の調査へと向かった。アゼリアの知識から島の規模は判明している。島の大きさは直径百キロの円に近い形状だ。正確には所々に半島があるが今は省く。そして魔王のいたと言われている拠点は島の中央。そこに魔王城と呼ばれる城があるらしい。これもアゼリアが図面に起こしてくれた。本当に便利なギフトだ。


 トーレスは引き続き拠点の拡張をしつつ、追放されてくる者達を受け入れる道に力を入れていく。残った男達が森を切り開きそこにトーレスが外壁を建てる。森には少しずつ安全な場所が増えていった。だがトーレスは自らの力に不満を覚え始めていた。


「……なんで僕は戦えないんだろう。僕にも戦う力があれば……」

「トーレス様~、壁お願いしまっす!」

「あ、うんっ! 今行くよ!」


 自分のギフトが戦闘向きではない事は百も承知だったが、それでも仲間にばかり戦わせている現状がやるせなかった。そんな思いが天に届いたのかもしれない。外壁を建設していると突然頭の中に声が響いてきた。


《創造した回数が一定回数を越えました。ギフト【鳥獣戯画】は進化します》

「え? あ……」


 そこでトーレスの意識が途切れた。


「っ!? トーレス様っ!? 皆っ、トーレス様が!!」

「「「「えっ!? た、倒れてるっ!?」」」」

「開拓は中止っ! 門を閉じ戻るぞ!」

「「「「あ、ああっ!!」」」」


 トーレスは意識を失ったまま拠点へと運ばれていくのだった。


 一方、リュートら調査隊はと言うと。


「これは……人間の服か」

「血まみれだな」

「これは魔物の爪で切り裂かれたものですね」

「可哀想に……」


 リュート達は拠点から海岸沿いを歩き調査していた。すると予想通りと言うか、やはり人がいた痕跡を発見した。


「やはりいくつか漂着する場所があったようだ。シュウ、地図に記載しておいてくれ」

「あいよっ」


 シュウが痕跡のあった場所を地図に記していく。そして同時にいくつかの事が判明していった。


「海岸沿いって魔物の強さは拠点周囲と変わんねぇみたいだな」

「そうですね。新しい魔物は出ましたが強さは拠点周囲と大差ないみたいです」

「おそらくだが中央に向かうにつれ強さが上がっていくのだろう。中央には魔王の城があるようだからな。近づけさせたくないのか、何か他の意図があるのかはわからんが……」

「どうするよリュート?」


 リュートはこの情報を交えどうするか考える。


「一度戻ろう。そしてこの地点まで開拓し、救える命は救う。その間に中央へ向けての調査を始めよう」

「オッケー、じゃあ一度戻るか」


 リュート達は海岸沿いに脅威はないと判断し、一度拠点へと戻る事に決めた。


「悪人がアジトでも作ってると踏んでたんだがなぁ~」

「そうだな。だが……ここは大陸と違い魔物の現れる頻度も段違いだ。いくら悪人でも休む暇なく魔物と戦い続ける事はできなかったのだろう」

「気の休まる時がないのは精神にきますからね……」

「私達、本当にトーレス様がいて良かったですわねっ」

「ああ。安全が確保できるかできないかで生存率は別物だからな。もしトーレス様がいなければ俺達も生きてはいなかっただろう」

「ああ、トーレス様! 二ヶ月ぶりに会えますわっ!」


 リュート達はトーレスが倒れているとも知らず、魔物を散らしながら拠点へと戻るのだった。

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