第12話 拠点拡張
新たな戦力が加わり拠点周囲の魔物はだいぶ減っていった。カトリーナを先頭に騎士達が魔物を駆除し、リュートを先頭にした男達が森を切り開いていく。
「リュート、ここは何にする?」
「そうだな、この一帯は畑にしよう。今いる場所は町にして区分けしようと思う」
「なるほどな。確かにまだまだ送られてきそうだからなぁ……」
「そう言う事だ。高い建物を造れない以上広い土地が必要になる。万が一にも今バレるわけにはいかない。俺達の力はまだまだ足りないからな。聖神教団に勝てる力を身に付けるまでの我慢だ」
「へいへいっと」
最初の拠点から真っ直ぐ道を伸ばし外壁で囲む。そしてその先に拠点と同規模の土地を確保し、これまた外壁で囲む。そこを新たな畑にする事にした。
「あぁ、野菜も良いけどさぁ……。そろそろ卵料理食いたくね?」
「卵か……」
確かに今肉と野菜には困ってはいない。果樹園もあるが卵だけはなかった。
「リュート、どうにかなんねーの?」
「どうにかと言われてもな……。鳥系の魔物以外の卵はすでにある程度育った状態で産み落とされる。割った瞬間に魔物が産まれてしまうのだ」
「鳥系の魔物……ロックバードとか?」
「一番捕まえやすいのはそいつだな。だが相手は魔物だ。卵を回収するのも一苦労だぞ」
「だよなぁ……。テイマーでも送られてこねぇかなぁ……」
落ちこむシュウにリュートが止めをさす。
「ギフト【テイマー】は当たりギフトだからな。万が一にも送られてくる事はないだろう」
「だよなぁ……」
そうして拠点を拡張しているとあっと言う間にセシリア達が来てから一ヶ月が過ぎた。リュートは迎えをカトリーナ達五人に任せ、男達を鍛え上げている。男達もトーレスから武器を授かり、弱い魔物ならば倒せるまでに成長していた。
「私だ。今戻った」
「はいよっ」
シュウは門を開き追放者を連れてきたカトリーナを迎え入れる。今回は少しばかり多かった。前々回は悪人、前回は姫一行を追放したからだろうか、今回は一般人がまとめて送られてきた。
「ここにこんな町があるなんて……」
「私達、助かったの……?」
そこにトーレスが顔を出し皆を出迎える。
「あれ……あなたトーレス? オルライン村のトーレスじゃない!?」
「え? あ、君は【ミモザ】!? え!? な、なんで君が追放されて来たの!?」
今回の追放者の中にトーレスの知り合いが混じっていた。彼女はミモザ。村に物資を売りに来ていた行商の娘だ。
「あはは、家の店潰れちゃって……」
「潰れた? 確かそれなりに大きい商会だったはずじゃ……」
「うん。潰れたって言うか……乗っ取られたの」
「乗っ取られた……」
商会の乗っ取りは別に珍しい事ではない。よくある話だ。
「ご両親は?」
「傘下の商会になって働いてる。けど……私は外れギフトだったから……」
「外れギフト……かぁ。どんなギフトだったか聞いても?」
「うん、私のギフトは【博愛】。自分より弱い魔物と意思疎通できるギフトみたいなの」
「え? お、大当たりじゃないか!」
「どこがよぉ……。自分より弱い魔物って言ったでしょ? 私のレベルは2よ?」
ミモザは箱入りだった。
「に、2かぁ~」
そこにリュートが混じる。
「トーレス様、もしよろしければ俺から一つ提案が」
「提案?」
「はい。ミモザ様のギフト【博愛】は今俺達にとって最も重要なギフトとなります。レベルは俺とカトリーナ達でミモザ様とパーティーを組み上げさせます」
「パーティー?」
「はい。パーティーは四人まで組む事ができますが、入手経験値が四分の一になります。ですが戦えない者でも石を一つ当てるだけでレベルを上げる事ができます」
「へぇ~、パーティーかぁ~」
そこにシュウも混じる。
「わかったぞリュート! ロックバードを捕まえる気だな!?」
「そうだ。今作っている拠点に養鶏場を作ろう。ミモザ様にはそこでロックバードを飼育してもらうのだ」
「ギフト【博愛】ならテイムに似た事ができるからな! そこでレベル上げか」
「ああ。ロックバードのレベルは20前後だ。俺とカトリーナで魔物を狩り、もう一人がミモザ様を護衛すれば不可能ではない。トーレス様、この案をご一考下さい」
話を聞いたトーレスはミモザに尋ねる。
「どうかな、ミモザ?」
「そうすれば何か良い事あるのかな?」
その問い掛けにリュートが答える。
「この拠点は安全だが足りてない食糧がある。俺達には現状卵を入手する手段がないのだ。そこでロックバードを捕獲し、ミモザ様のギフトで害のない魔物にしていただきたい」
「で、できるかな……」
迷うミモザに三ツ星シェフのミューレが話し掛ける。
「卵があれば料理の幅も広がりますし……、お菓子なんかも作れますよ」
「お菓子!?」
「はい。ここにはギフト【パティシエ】持ちもいますし」
「お菓子かぁ~……。わかった、やってみる!」
「ありがとうございますっ!」
こうしてミモザを含む追放者三十人が仲間に加わり、拠点もだいぶ賑わいを見せてきた。トーレスはミモザがレベリングをしている間に養鶏場を建設し、新たに追放されて来た者達に力を示して見せた。
「す、すげぇ……。なんでこんな人が追放されたんだ?」
「一生ついていくぜ兄貴ぃぃぃぃぃっ!」
今回送られて来た者の中には冒険者も数人混じっており、その者達が戦えない者にも技術を指導していった。
「俺達はまだ低ランクだけどさ、魔物と戦う知識や迷宮探索の知識ならあるからさ。それを教えてあげるよ」
「冒険者が仲間になってくれるのは心強いな。俺はシュウ、よろしくな!」
こうして少しずつだが拠点の質が向上していく。ミモザはどうやったのかは知らないが十日ほどでレベルを30まで上げてきた。表情は半分死んでいたが。
「は……ははは……。魔物怖い魔物怖い……」
おそらくリュートとカトリーナが無茶をしたのだろう。セシリアが新たな技を身に付けていたのがその証拠だ。そのセシリアも表情が半分死んでいたが。
「だ、騙されました……。虫食べちゃいましたぁ……」
虫嫌いだったっけ。可哀想にと思いつつも、強力なスキルを身に付けたセシリアは頼りになると褒めたら一気に全快したのだから単純だ。
そして新たな住人が来てから二十日、養鶏場でロックバードの飼育が始まった。
「は~い、皆~! ご飯の時間よ~」
《《クケェェェェェェッ!》》
ロックバードの餌は穀物だ。拡張した畑は麦畑にした。その大半がロックバードの餌となる。
「ミモザ、調子はどう?」
「あ、トーレス。うん、大丈夫だよっ。私のギフト上手く機能してるみたい」
「そっか。助かるよ、ミモザ」
「うん、大陸では役立たず呼ばわりされた私だけど……ここじゃ役に立てるから幸せよっ」
「良かった。僕達はみんな役立たず呼ばわりされたけどさ、そんな僕達でも一つになれば地獄のようなこの場所でも生きていけるんだ。頑張っていこうね」
「ええっ、もちろんっ」
こうして拠点に卵の流通が始まるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます