第11話 暴食の姫

 セシリアの告白に驚く面々。その言葉に一番驚いていたのがカトリーナだ。


「ひ、姫様! 何を仰いますか! あなた様は見知らぬ者との結婚が嫌で逃げてきたのでしょう!?」

「カトリーナ、私は政治の道具にされるのが嫌で逃げてきたのです。そこでの結婚に愛なんてありません。私は……結婚する相手は自分で選びたいのです。今までろくな扱いもされていなかったのに都合の良い時だけ利用されるなど我慢なりませんでした」

「姫様……」


 セシリアは継承権を持たないがために城ではあまり良い待遇を受けていなかったようだ。カトリーナを始め護衛の四人も表情を曇らせている。


「政略結婚だとすると、相手は隣国のどこか。知っているでしょう? どこの王子も豚やヒキガエルのような醜く欲深い者のみ! そんな者達との結婚など死んだ方がマシ! それに比べ……あぁ、トーレス様のなんと美しい事っ!」

「そ、そうでしょうか? 私からするとリュート殿の方が……」

「アレはダメです。強さばかりを追い求め家庭を蔑ろにする顔ですわっ!」


 思わぬ所でダメージを受けるリュート。


「言われてみれば確かに……」

「戦バカって感じですね」

「確かに家庭向きではなさそう」

「何か上から物言いそう」

「家庭より仕事を選ぶタイプね」

「お前らもう止めろぉぉぉぉっ! リュートの体力はゼロだぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 あまりに可哀想なリュートをシュウがかばう。


「何こいつ」

「できてるのかしら?」

「ど、どどどどっちが受けかしらっ!?」

「じゅるり……」


 護衛の内二人が腐っていた。そこをセシリアが制する。


「あなた達、その辺で止めなさい。確かにリュート殿は私に剣を向けましたが……これからは仲間となるのです。仲良くしなければなりませんよ?」

「「「「は~い」」」」


 そしてセシリアはトーレスに向き直る。


「トーレス様」

「は、はいっ!」

「私、少々焦っていたようです。これからここで暮らしていく中でお互いの事をもっと知っていきましょう。結婚はそれからでも構いません」


 万に一つも自分がフラれる事など考えてもいないセシリアだった。対し、アゼリアは未だ静かなままだ。そんなアゼリアにミューレが話し掛ける。


「アゼリア? トーレスさんとられちゃうわよ?」

「え? ああ、別に良いわよ」

「へ?」

「だって優れた男性が複数の女性と結婚するのは当たり前だし。むしろあの姫様は良くわかってる方よ。このパンドラで一番優れているのはトーレス、それは間違いないもの。見る目あるなって思ったわ」

「れ、冷静ね……」

「そう? それより……リュートとシュウ……ありね。一見してリュートが攻めにも見えるけど……」

「えぇぇぇ……」


 アゼリアも大概腐っていた。


 こうしてセシリア一行が新たに仲間となり、戦力も一段階向上した。カトリーナを含む五名の力はリュートには及ばないが迫るものはある。何より五人は連携が上手い。さすが王国で訓練された騎士だ。拠点周辺の魔物では相手にもならないようだ。


 そんなある日の事、カトリーナが肉を担いで拠点へと戻ってきた。そして真っ直ぐ調理場へと向かう。


「ミューレ様、この肉を調理しセシリア様にお出し下さい」

「こ、これは何の肉ですか?」

「火吹きトカゲの肉です」

「ま、魔物の肉っ!? えぇぇ……調理した事ないよぉ~……」

「味は鶏肉と同じようなものです。ではお願いいたします」

「えぇぇぇぇ……」


 しばらくして調理場から香ばしい匂いが流れる。そしてセシリアの前に先ほどの肉塊が見事な料理となりセシリアの前に置かれる。


「お、お待たせいたしました。えっと……火吹きトカゲのソテー、ハーブを添えてです。ど、どうぞ」

「ありがとう、ミューレさん。素晴らしい腕前ですねっ」

「あ、ありがとうございますっ!」


 三ツ星シェフの能力が遺憾なく発揮された料理だった。セシリアは優雅にそれを完食し、皆を中庭に集めた。


「なんだなんだ?」

「なにか始まるのか?」


 トーレスもその場に呼ばれ何が始まるのか待っている。


「皆様、お集まりいただきありがとうございます。これより私のギフト、暴食の本当の力をご覧いただきます」

「本当の力?」

「はい。私は先ほど火吹きトカゲの肉を食しました。それで得た力がこれです」


 そう言うとセシリアは誰もいない方を向き口を開いた。


「【ファイアブレス】!!」

「「「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」」」」


 セシリアの口から轟炎が吐き出された。それを見てリュートが驚く。


「い、今のは火吹きトカゲのスキル……! 魔物のスキルを人間が使う……だとっ!?」


 セシリアは炎を止め皆に向き直る。


「これが私のギフト【暴食】の本来持つ力です。私は食べた物のスキルやギフトを自分のモノとして使用できます。そして、一度身に付けた力は消えません」

「ば、バカな……。それでは全ての魔物のスキルが使える事に……」

「いえ、さすがに全てまでは。私、虫系は苦手ですので」


 流石の暴食も好き嫌いには勝てないようだった。


「す、凄いよセシリア! 魔物のスキルを自分のモノにできるなんて!」

「はぁぁぁぁぁんっ! トーレス様っ!」


 トーレスはセシリアのギフトに驚き素直に称賛した。


「これなら魔法を使えなくても魔法に耐性のある魔物でも倒せる……! 来てくれてありがとう、セシリア! その力でパンドラを楽園に変えよう!」

「楽園……私達二人の楽園……!」


 セシリアは盲目だった。もはやトーレスしか見えていない。


「も、もちろんですともっ! この身は全てトーレス様に捧げますわっ! トーレス様の願いならなんでも叶えて差し上げましょうっ」

「あ、あはは。み、皆のね、セシリア」


 こうして暴食の本当の力を知らしめたセシリアはトーレスの力となるため戦列に加わるのであった。


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