第10話 次の追放者
トーレスがリーダーに抜擢された数日後、リュートは海岸で次の追放者を待っていた。前回は悪人ばかりだったが今回はどうだろうか。
「む……きたな」
草木に身を隠し海を監視していると一隻の船がやってきた。
「ふむ。毎回この海岸が使われるのか? いや、違うか。船が同じ事から国によって投棄する場所が決まっているのかもしれんな。となると……島には悪人も潜んでいるかもしれないと言う事か。まぁ……武器を取り上げられ魔物を倒せるとは思えないが……。一応報告しておくとするか」
そうしている間に追放されてきた者達が砂浜に泳ぎ着いた。
「なんなのよもうっ!! 海に投げ捨てるなんて信じらんないっ! 姫様、大丈夫ですか?」
「は、はい。私はなんとか……」
「他の者は無事? 誰か怪我をした者は?」
「「「「大丈夫です!」」」」
リュートはしばらく監視し悪人ではないと判断する。そしてゆっくりと追放されてきた者達の前に姿を現した。
「っ! 魔物かっ!」
「いや、違う。俺は二ヶ月前に追放されてきた者だ」
「二ヶ月? 生き残りって事かしら?」
「ああ。二ヶ月前に送られて来た者は全員生き残っている。拠点を築いてな。武器や食糧もある」
「嘘でしょ? 役立たず認定された者がこのパンドラで生き延びられるわけが……」
「【カトリーナ】、あの方の腰を」
応対していたカトリーナと呼ばれた女性がリュートの腰に下げられた剣を見る。
「剣……。まさか、どうやって?」
「我らがリーダー、トーレス様から賜った剣だ。俺はリュート。トーレス様を守る剣だ」
「リュート……? あ、リュート・エッジバードでは?」
カトリーナの隣にいた女性がリュートにそう言った。
「エッジバード……? ああ、我が国の貴族か。ならこの方を知っておられるだろう。この方は我が国の姫君、【セシリア・レッドフォール】様である!」
「セシリア……? 知らんな。第一王の子は皆男子ばかりだと聞いているが?」
そこでセシリアは隠し持っていた王家の紋章の入ったロケットをリュートに見せた。
「この紋章は王家の者しか使えません。貴族なら知っておられるかと」
「確かに。偽造した時点で死罪だからな。しかし……」
「この方は正真正銘王の血をひくお方だ。正妃の子ではありませんが」
「……なるほど。事情は大体わかった」
おそらく妾かお忍びで市井の者と作られた子だろう。
そう考えているとカトリーナがリュートに声を掛けた。
「リュートと言ったな。そちらのリーダーとやらと話がしたい。お目通り願えるか?」
「……良いだろう。変な真似はするなよ。ここはもう王国ではないのだからな」
「わかっている」
リュートは全員を引き連れ拠点に戻った。
「こ、これは……。パンドラにこんな場所が?」
「全てトーレス様のお力だ」
そう告げ、リュートは扉を叩き合図を出す。すると扉が開きシュウが出迎えた。
「えぇぇぇ……、全員女かよ」
「ああ。なんでも姫様らしい」
「へ?」
「私はセシリア・レッドフォールです。よろしくお願いします」
「ま、マジかよ……」
「これからトーレス様と面会だ。シュウは扉を閉めたら訓練に戻って良いぞ」
「お、おう」
今回追放されてきたのは六名だ。セシリアとカトリーナ、そして中々に身のこなしが良い女四人。おそらく戦闘訓練を受けた者だ。
「ここで少し待て」
「わかった」
リュートは扉をノックし中に入る。
「トーレス様、追放者を連れて戻りました」
「お疲れ様、リュート。今回は悪人じゃなかったんだね」
「はい。しかし……今回追放されてきた者は自分を姫と名乗っておりまして」
「ひ、姫? 僕達の国の?」
「はい。王家の紋章も所持しておりました」
「……僕その辺あんまり詳しくないんだよね」
「では俺に一任して下さい。探りを入れてみましょう」
「頼むよ」
リュートは室内から扉の向こうに声を掛ける。何かあった時のためトーレスの側に控えている。
「失礼します。あなたが……?」
「まぁ、優しそうなお方……」
六人は室内に入り頭を下げた。
「えっと……一応僕がここでリーダーを勤める事になったトーレスです。あなた方は王族と聞きましたが……」
それにカトリーナが答える。
「はっ。私はカトリーナ・アンセム。こちらにおわすセシリア・レッドフォール様をお守りする騎士であります。そして後ろの四名は私の配下にございます」
「き、騎士?」
「はい。今回追放される事となった姫様の身を守るため自らパンドラ行きを志願した者です」
「な、なるほど」
リュートは鋭い目付きで後ろの四人を睨んでいた。姫を守るカトリーナはおそらく動かないだろう。だが後ろの四人は違う。もしかしたらトーレスに害を及ぼすかもしれないとリュートは気を張り巡らせていた。
「姫様に騎士様でしたか。僕達は二ヶ月前に追放されてきた者です。この二ヶ月でなんとかここまで暮らせる環境を整えてきました。ですが、ここで暮らすのも出るのも自由です。選択権はそちらにありますので好きな方を選んで下さい」
「トーレス殿と言いましたか。それは私達もここで暮らしたら武器をもらえると言う事でしょうか?」
「はい。この島は危険ですから。今戦えるのはリュートだけなので、もし皆さんが力を貸してくれるなら姫様の安全は保証しますよ」
それを受けカトリーナはセシリアに伺いをたてる。
「……わかりました。姫様、彼にギフトの説明をしてもよろしいでしょうか」
「いえ、私から話します」
「はっ」
セシリアはトーレスを真っ直ぐ見ながら口を開いた。
「私は側室の子で姫でありましたが、秘匿されていました。私達の国は男子にしか継承権はありません。私は……他国との繋がりを深めるための道具として育てられてきました」
トーレスは黙っままセシリアの話に耳を傾ける。
「ですが……先の成人の儀で私に宿ったギフトのせいで全て水泡に帰してしまいました。私の授かったギフトは……【暴食】でした……」
「暴食?」
トーレスはリュートを見るがリュートも知らないようだった。
「私のギフト暴食はなんでも食べる事ができるもの。とだけ皆には伝えてました」
「食べるだけ……じゃないだろう。わかったぞ、道具扱いが嫌で逃げてきたんだな?」
リュートがそう問い掛けるとセシリアはこくりと頷いた。
「私のギフトの本当の能力は食べたもののスキルやギフトを吸収し、自分のものとできる力なのです」
「なっ!?」
リュートは即座に剣を構える。
「トーレス様! こいつらは危険ですっ! すぐに追い出しましょう!」
「え? なんで?」
「え?」
トーレスはセシリアを見ながら言った。
「ようは自由になりたくて逃げてきたんでしょ?」
「は、はい。他国の知らない者との結婚が嫌で逃げたのです」
「なるほど。僕達と敵対する意思はある?」
「いえ、ありません。ここにおいていただけるならなんでもいたします」
「なんでもは言い過ぎじゃない? ほら、僕も男だし?」
「あ、あなたが望むなら……や、やぶさかではありませんわ」
「へ?」
セシリアはトーレスを見て顔を赤くしていた。
「いやいや、もっと自分を大事にした方が……」
「大事にしてます! その……一目惚れしましたっ!」
「えぇぇぇぇっ!?」
セシリアの突然の告白に、トーレスの驚いた声が室内に響き渡るのであった。
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