第9話 みんなのリーダー

 リュートと皆の間にあったわだかまりも消え、畑も完成した今、男達はリュートから戦いの術を学ぶ段階に入った。


「それでは素振り始めっ!」

「「「「一っ! 二っ! 三っ……!」」」」


 男達は真面目に剣を振りスキル【剣術】習得を目指す。スキルはギフトと違い努力次第で手に入る。例えばギフトには【剣聖】や【剣鬼】、【剣姫】、【ソードマスター】、【侍】などがある。これらは剣術スキルを持たない者でも最初から達人級に剣を使いこなす事ができる。それ故に即戦力となり、成長も早いのである。


 対し、スキルは相当の努力が必要となる。才能のある者でスキル剣術(初級)獲得まで一年、ない者で二年と言われている。


 リュートは男達の素振りを見ながら才能の有無を判断していく。


「シュウ、抜けてくれ」

「ちぇっ!」

「オルム、エインもだ」

「「くっそ~、才能なしかぁ……」」


 まず三人が脱落した。


「他の者はまぁまぁ才能があるようだ。これから毎日時間の許す限り素振りを続けてくれ」

「「「「おぉぉぉぉっ!」」」」


 そしてリュートはシュウ達三人を見る。


「次は槍だ。これから実演するから見て真似するんだ」

「「「おうっ!」」」


 リュートの演舞に続き三人は槍を振り回す。


「エインは槍だな。他の二人は次だ」

「「おぉ……う」」


 その結果、オルムは斧術に才能があり、シュウは短剣術の才能があると判明した。特にシュウは器用で、短剣を両手に持ち見事な体さばきを見せた。


「シュウ……お前、なぜその動きを剣でできんのだ……」

「重いんだよっ!? あんなもの振り回せる方がおかしいっての!」


 単なる筋力不足だったらしい。


「お前は少しレベルを上げたら力の種をもらえ……」

「おうっ! だがまずは短剣術の習得からだ! やったるぜぇぇっ! オララララララララッ!!」


 その後全員に訓練方を教えたリュートはトーレスの部屋に向かう。


「トーレス様、今少々よろしいですか?」

「リュート。うん、良いよ」


 トーレスは訓練には参加せず女性でも戦える武器を考案していた。


「どうしたの?」

「はい。そろそろ前回の船が来てから一ヶ月が経ちます」

「もうそんなに経ったのかぁ……。早いものだね」

「やる事が山のようにあるからですね。それより、俺はまた海岸で待機しようと思います。許可をいただけますか?」


 その言葉使いにトーレスが突っ込む。


「あの、リュート? その言葉使い元に戻さない?」

「戻しません。なぜならトーレス様のお力添えで俺の疑いは晴れましたので」

「いやいや! あれは普通に考えたらありえない話だからで! 僕の力なんかじゃないよ」


 しかしリュートは首を縦に振る事はなかった。


「いえ、例えばあの言葉をシュウが言ったとしても皆は納得しなかったでしょう。今の暮らしがあるのはトーレス様がいたからこそ。皆の中でトーレス様はリーダーとなっているからこそ響いたのだと思います」

「り、リーダー!? いや、ちょっと待ってよ!? それこそリュートの方がリーダーっぽいでしょ!?」

「俺はだめです。所詮戦う事しかできませんから。誰かの心に響かせる言葉などとても……。リーダーとは一番強い者がなるものではありません。皆をまとめ導ける者こそ真のリーダーと言えましょう。俺のやり方ではそれこそ教団と同じになってしまいます。人の痛みがわかるトーレス様だからこそ、リーダーに相応しいのです」


 トーレスは気恥ずかしくなり頭を掻いた。前述したがトーレスの住んでいた村は皆仲の良い者達ばかりだ。困っている者がいたら助け、悩みがあれば皆で解決する。そんな村で育ってきたトーレスは人の悩みや痛みがよくわかる青年へと成長していたのだ。


 そしてここからわかるように全ての聖神教団員が歪んでいるわけではない。歪んでいるのは上層部、そしてそれに取り入ろうとする者、他者を蹴り落とそうとする欲深き者達が世界を狂わせている元凶なのである。


 トーレスは顔を上げリュートに言った。


「やっぱりこういうのは勝手に決めちゃだめだと思うからさ、皆でリーダーを選ぼうよ」

「と言いますと?」

「うん。各自に紙を一枚配ってさ、リーダーに相応しいって思う人の名前を書いてもらうんだよ。もちろん自分の名前は書かないでね。そしてその紙を箱に入れて皆の前で一枚ずつ開いていくんだ。そこで一番名前の多かった人がリーダーってのはどうかな?」

「なるほど。皆の意見をまとめて相応しい者を選ぶのですね。わかりました、それでいきましょう。すぐに準備を始めます」


 一ヶ月までまだ数日ある。リュートは次の者達が来る前にリーダーを決めてしまう気でいた。明確なリーダーのいる集団の方がまとまりが良い。過去の経験からリュートはそれを学んでいたのである。


 数時間後、食堂で説明が行われ投票が始まった。結果、リュート一票、他は全てトーレスとなった。


「出来レースだ!」

「はははは、トーレス様の決めた結果です。皆、これより俺達のリーダーはトーレス様だ。トーレス様を先頭に力を合わせてこの島で生き抜くぞ!」

「「「「意義なーし!」」」」


 こうして正式にトーレスがリーダーとなるのだった。

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