第7話 生活基盤を整え

 トーレスは女子棟に入り地下室を作る事にした。地下なら覗かれる事もないだろうと考えたのである。


 地下室は案外簡単に出来た。トーレスが何もない空間を描くとそこに空間が広がったのである。消えた土がどこにいったのかはわからない。蛇口の時もそうだが、トーレスがそこに空間があると認識し、絵を完成させるとその通りに具現化されるのである。


「僕のギフト……改めて滅茶苦茶だなぁ……」


 これまで何回もギフトを使ってきたトーレスは完全に使い方をマスターしていた。そして出来る事と出来ない事がわかった。


 トーレスのギフトは命ある者は生み出せない。魔物などは一定時間のみ生み出せるが、生み出した目的を果たすと消えてしまうのである。さすがに生命の創造までは無理だった。


「よし、じゃあ出来上がった空間に今度はアゼリアの書いた設計図を使ってと……」


 トーレスは地下に開いた空間内に浴室やら脱衣場、洗濯室を作っていく。また、地下に作ったため、いくつか柱も増設した。


「こんな感じかな? 一応アゼリアに確認してもらおう」


 浴室を完成させたトーレスはアゼリアを呼びに向かう。アゼリアはもう出来たのかと驚きつつも、トーレスにつき地下に降りた。


「はぁぁ……、凄いっ! 設計図のままね!」

「一応地下だから柱を何本か増やしてみたんだけど、どうかな?」

「全然大丈夫よ! むしろオシャレじゃないっ。ね、もう使えるの?」

「うん。お湯を張れば使えるよ」

「よ~し、じゃあ早速……」


 アゼリアは浴槽にセットしてある蛇口を回しお湯を張っていく。


「……ち、ちゃんとお湯が出る……。本当にこれどうなってるのかしら……」

「僕にもわからないかな。そういう物だってしかね」


 アゼリアは床から立ち上がりトーレスに言った。


「本当にトーレスがいてくれて良かった。もしトーレスがいなかったら私達全員もう死んでたかもしれないもの。トーレス、ありがとうね」

「いや、僕こそありがとう。アゼリアがいなかったらこんなデザインなんて思い付きもしなかったしね。アゼリア達がいてくれたおかげで僕もどんどん新しい知識が増えていってるんだよ。僕一人じゃ大した事なんて出来なかった。だから……僕からもありがとうだよ」

「トーレス……」


 そんな良い雰囲気になりかけていた時だった。アゼリアは急に頭を抱えた。


「アゼリア?」

「トーレス、後ろ……」

「え?」


 トーレスが後ろを振り向くと女性陣がニマニマとこちらを見ていた。


「お熱いことですね~」

「キスはまだかしら?」

「そこよっ! 早く抱きしめるのよっ!」

「あんた達ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

「「「「きゃあぁぁぁぁぁっ」」」」


 アゼリアは顔を真っ赤にして女性陣を追いたてるのだった。一人残されたトーレスは呆然としていた。


「な、なに今の? 感謝を伝えただけなのに……変なの」


 今一つ鈍いトーレスなのであった。


 こうして女子棟に風呂を作ったトーレスは男子棟にも風呂を作り、住民の清潔度を向上させた。


 その間に男達は畑を完成させ、そこにギフト【種生成】を持っていた男の一人が野菜の種を生成し、完成した畑にまいていく。


 そこでシュウが男を尋ねた。


「なぁ、他にどんな種が作れるんだ?」

「そうだね。この世界にある種ならなんでも生成できるよ」


 見た目は学者のような男がシュウの問い掛けにそう答える。


「は? じゃあ……力の種とか魔力の種も?」

「もちろん生み出せるよ」

「いやいや、ちょっと待て! そりゃ考えようによっちゃすげぇギフトじゃん! なんで役立たず扱いされたんだ?」


 男は言った。


「それは……僕が植物の種しか生成出来ないって嘘をついたからさ」

「え? なんでそんな嘘を……」

「教団に従いたくなかったからだよ。あの教団は僕が子供の頃住んでいた土地を無理矢理奪い町を作ったんだ。思い出も思い入れもあった先祖代々伝わってきた土地を……奴らは二束三文で買い叩いたんだ。そんな奴らには絶対に従いたくない。僕の目的はこの島に来る事だったんだ。ここにいれば教団に恨みを持つ仲間を探せる、そう思ってきたんだよ」

「復讐か……。お前さ、自分で種は使わないのか?」


 そう尋ねると男は残念そうな表情を浮かべこう返した。


「僕のギフトで生み出したステータスアップ系の種は他人にしか効果が出ないみたいなんだ。野菜の種なんかはちゃんと腹も満たせるんだけどね。きっと神様は仲間を集めろって言いたかったんだと思うよ」

「そうか。なかなか上手くいかないもんだな、世界ってのはよ」

「そうだね。でも……今ようやく上手く回り始めたと思うよ。トーレスくんという存在が現れ、この死しかない島に町が出来る可能性が出てきた。そして僕の本当の力がさらに可能性を上げる。種は一日一種しか摂取できないけど皆の力を伸ばす事が出来る。夕食の時にでも話そうと思う」

「……そっか。俺達はこの島に捨てられた時点でもう人間扱いされる事はねぇし、あっちでは死んだ事になってる。お前の復讐に協力してやるよ」

「ははっ、無理にとは言わないよ。協力してもらえなくても種はあげるからさ。仲間だろ?」

「「「おう、仲間だぜ。ここにいる全員がな」」」


 種蒔きを終えた男達がシュウ達を囲む。


「み、皆……」

「水臭ぇぞ、この島に送られた時点で教団は俺達の敵よ。役立たずでも生きる価値があるって事を教えてやるぜ」

「そうだな。自分達が世界を支配している教団に目にものをみせてやるぜ!」


 そこでリュートが言った。


「種を使うのは自由だ。教団の奴らも日々迷宮に潜っては種を集めているだろう。手っ取り早く強くなるために種は有用だ。だが……簡単に強くなれてしまうために歪む者も多い。そして……これは証明されてはいないがおそらくだが今のレベルでの限界値を越えた強化はできない。強くなるためには種を使い、さらに魔物と戦ってレベルを上げるしかない。大陸では魔物が少ないため、この理論はまだ証明されていないのだ」


 それにシュウが首を傾げる。


「そりゃおかしいぜ? 迷宮にも魔物は出るだろ?」

「うむ。良い質問だ。確かに迷宮にも魔物は出る。だがどうしてかいくら迷宮の魔物を倒したとしても経験値が入らんのだ。これは倒した魔物が宝箱に変わる事と関係していると思われる」

「なるほど。経験値の代わりに宝を手にしてるって事か。確かに野生の魔物は宝箱になんないもんな」

「そうだ。宝を獲るか、経験値を取るか、迷宮とそれ以外でわかれていると考えられている」

「んじゃ教団の奴らはレベルが低いのか?」


 リュートは首を横に振った。


「残念だが経験値は人を殺してももらえるのだ」

「なっ!?」

「これまで教団は反勢力や賊などを捕まえては上層部に引き渡していた。目的は経験値だろう。敵が強ければ強いほど大量の経験値が入る。上層部は捕まえた奴らを下っ端に鍛えさせ、自分で食っているのだ」


 そこで話を聞いていた男の一人がリュートに問い掛ける。


「まてよ、なんでそんなに詳しく知ってるんだ? そんな話は誰も聞いた事すらないぜ」

「……ああ。皆には言っておこう。俺の父はその上層部にいる」

「「「「な、なんだって!?」」」」


 男達は一気に嫌悪感を剥き出しにし、リュートから距離をとるのだった。

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