第6話 農地開拓

 閉鎖されている入り口の扉が外から数回叩かれる。


「お?」


 するとシュウが数回叩き返し、あちらがまた数回叩き返した。


「リュートだな、門を開けるぞ~」


 カラカラカラと滑車が音を立て門を開いていく。二人はあらかじめ合図を決めていた。これはもしリュートに何か不足の事態が起こった時、他の人間を中に入れないための策だ。


「リュート! 無事に戻った……あれ、お前一人だけ?」


 リュートは神妙な面持ちでシュウに言った。


「ああ。今回送られてきたのは全員賞金のかかっていた盗賊だった」

「と、盗賊だって!? そ、そいつらどうした?」

「もちろん海に帰ってもらったさ。これでわかった。送られてくるのはギフトが役に立たない奴だけじゃない。犯罪者も送られてきていたんだ」

「……や、ヤバくないか? 魔物だけでも手に余ってるのによ……。と、とにかくトーレスに報告しに行こうぜ」

「ああ」


 シュウが門を閉めた事を確認し、リュートはトーレスのもとに報告に向かった。


「と、盗賊だって!?」

「ああ。今回送られてきたのは黒犬と呼ばれていた凶悪犯十人だった。とても協調性があるとは言えなかったので……いずれも海に帰した。もう問題はないだろう」

「そ、そっか。この島に送られていたのは僕達のように役に立たない人間だけじゃなかったんだね」

「悪党は聖神教団の儀式を受けない事もある。教団も全ての人間を管理出来ているとは思えないし、中には危ないギフトを持つ者も紛れているかもしれん。悪党が送られてくる事もあると知った今、男連中の訓練は急いだ方が良いかもしれないな」


 トーレスはリュートの意見を汲んだ。


「わかったよ。そっちはリュートに任せるからさ、頼めるかな?」

「ああ。それでこれからどうする? 拠点は完成したが……」

「うん。次は農地でも作ろかなと。いつまでも僕が食材を描くのもね」

「農地か。それは良い。トーレス、男たちに鍬を用意してもらえないか?」

「え? あ、うん。それはもちろん」


 リュートはすぐに男達を外に集めた。


「聞け。これから訓練を始める」

「訓練? この鍬でか?」


 男達の手には鍬が握られていた。もちろんリュートも鍬をもっている。


「良いか、鍬を振り下ろす時はこうだ。ふんっ!!」


 リュートは背筋を伸ばし鍬を頭上から真っ直ぐ地面に振り下ろして見せた。


「「「おぉ~……」」」

「兵農一体。畑を耕す動作でも訓練になる。まずは振り下ろしの動作と、その細い身体を鍛える事にする。畑があれば食糧にも困らなくなる。一石二鳥、いやもっと得るものはあるだろう」


 それを聞いた男達はやる気に燃えた。


「よ~し、やったるぜ! いつまでもトーレスに食材出させてちゃ悪いもんな」

「だな。強くもなれるし食材も作れるようになるならやらない手はないよな!」

「畑仕事なら俺に任せな! 村でガキの頃からやってたからよ!」


 男達はリュート指導の下、屋敷の裏手に畑を作り始めた。トーレスもそれに参加しようとしたが突然女性陣に連れ去られていった。


「な、なに?」


 アゼリアが代表してトーレスに願い出る。


「トーレス、大事な話があるの」

「大事な話?」


 いつになく真剣な表情で願い出るアゼリア。トーレスはその真剣さに何かあったのかと心配になり話を聞く事にした。


「トーレス……」

「は、はい」

「お願いっ! 屋敷にお風呂作って!」

「風呂? 風呂って……あの貴族や大商人の屋敷にしかないって言われてるあの?」

「そう、それよっ! それで出来たら男女それぞれの棟に作って欲しいの。覗かれないようにね」

「風呂かぁ~……出来るかなぁ」


 ミューレも続いて説得にかかる。


「大丈夫ですよ。トーレスさん、キッチンに蛇口をつけてくれたでしょう? あれを風呂につけてお湯が出るイメージをすれば出来ると思います!」

「なるほど、それなら出来そうだね。一応熱かった時に冷やせるように水の出る蛇口も付けようかな。アゼリアさん、デザイン頼める?」


 アゼリアは懐から紙を取り出す。


「もう出来てるわよ。女子棟はこんな感じでお願い!」

「最初から作らせる気満々じゃないか……」

「だって~……。女が汗臭いと嫌でしょ? それにここは海が近いから潮で髪が軋むのよ」

「確かに……。ちょっと見てみるね」


 トーレスは設計図を受け取り広げて見た。


「ふんふん……。浴槽広くするの?」

「ええ。皆で入れるようにね」

「こっちは?」

「そこにいくつか蛇口をつけて体や髪を洗えるようにするの」

「なるほどねぇ。でもこれ……排水はどうするの?」

「キッチンと同じで良いと思うわ。あの排水溝もどうやってか知らないけど排水できるんでしょ?」

「なるほど」

「浴槽の方は排水溝を塞ぐ蓋でも付ければ大丈夫かなと」


 アゼリアの用意してきたイメージ図はおそらく王宮のものだと思われる。壁や床は白と色まで指定が入っていた。


「この手前の部屋は?」

「そこは脱衣場ね。で、その隣は洗濯室と洗った洗濯物を干す場所よ」

「外に干さないの?」

「あのねぇ……下着を外に干せるわけないでしょ? 女子棟内は男が入れないから大丈夫なのよ」

「あ、ご、ごめん。気がつかなくてっ」

「みんながトーレスみたいに純粋なら良いんだけどねぇ……。まぁ、そんな感じでお願いできる?」

「わかった、やってみるよ」


 トーレスは男達が畑を作っている最中、一人風呂を作りに向かうのだった。

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