第5話 拠点完成からの

 女性代表は激しい戦いの末、アゼリアに決まった。


「くやしぃぃぃっ! あそこでチョキを出してればぁぁぁぁっ!」


 アイコが十回以上続いたバトルはアゼリアに軍配があがった。


「つ、強かった……。紙一重の勝負だったわね。なかなか楽しめたわ」


 アゼリアは勝者の風格を醸し出していたが、男性陣はドン引きしていた。


「女ってこえぇな……」

「ああ。俺達は次に送られてくる女神を待つとしよう」


 こうして部屋割りも決まり、トーレスは完成した図面から完成図を思い浮かべながらトレースし、外壁の中央に屋敷を産み出した。


「おぉぉぉ……、マジで屋敷が出た……」

「す……すっご~い……」


 トーレスのギフトを初めて目の当たりにした者達は突如現れた屋敷を見上げ呆然としていた。


「外観は完成したけど中身までは多分出来てないかも。これから家具とか作っていかなきゃね。みんなどんな家具が欲しいか教えてくれたら描くから遠慮なく案を出してね」

「「「「か、神やぁ……」」」」


 トーレスは皆の意見が出揃うまでに一人の女性に声を掛ける。


「あの、ちょっと良いかな?」

「え? は、はははははいっ! なんでしょう!」


 トーレスが話し掛けたのはギフト【三ツ星シェフ】をもっていた女性だ。名前は【ミューレ】。作った料金はどんな物でも三ツ星レストランの味になると言うギフトだ。


「ミューレさんに食堂を担当して欲しいと思いまして」

「私ですか? はいっ、良いですよ! トーレスさんの頼みなら喜んで!」

「あ、ありがとう! これで食はどうにかなりそうだよ。じゃあ食堂に行きましょうか。先に調理器具とか色々作ってしまいましょう」

「は、はいっ! (良くやった私のギフト! ありがとうっ!)」


 トーレスはミューレと食堂へと向かった。


「あの、僕料理とか全然ダメで……。何が必要かわからないんだ。必要な物を紙に描いてもらえるかな?」

「あ、はい。まずは……」


 トーレスはミューレの描いた絵からイメージを膨らませ、調理に必要な器具を次々と産み出していく。


「これで大丈夫かな?」

「はいっ。後は食材ですね。けど……これどうなってるんですか?」

「どれ?」

「このキッチンですよ。水道が通ってないのに蛇口から水がでるし排水されてるし……」


 そう、キッチンは要望通りに作った。結果、水道か通っていないにも関わらず水が出る不思議なキッチンになっていた。トーレスの頭では蛇口はひねれば水が出る物と認識されているため、そうなったのかもしれないが、原理は全く不明だ。


「ま、まぁ……問題なく使えるようだし良しとしておきましょう」

「ふふっ、そうですね」


 それからトーレスは様々な食材を出し、ミューレに渡した。


「その内畑とか欲しいですね~」

「うん。少しずつ開墾して土地を増やしたらね」

「そうですね。私は私にできる事を頑張りますっ!」

「うん、みんなで頑張って生き延びようね」

「はいっ!」


 キッチンを整え食堂に椅子やテーブルを設置し、二人は外に出る。それからまた二週間かけ、全員の部屋と生活環境を整えていった。


 こうしてパンドラにひとまず拠点が完成し、トーレス達は生きていく術を整えた。そんなトーレスにリュートが言った。


「トーレス、船が見えた」

「え? あ、そっか! もう一ヶ月経ったんだね」

「ああ。俺は前に言った通り選別に行ってくる。戻るまで門は絶対に開けないでくれ」

「わ、わかった」


 リュートは剣の他にも防具一式をトーレスに頼んでいた。トーレスもこれは絶対に必要だと判断し、アゼリアを交え装備の形状を相談しリュートに渡していた。今一番頼りになるのは間違いなくリュートだ。彼は失うわけにはいかない。


 リュートに食糧を詰めた袋を渡し、シュウが扉を閉めた。


 そしてリュートは拠点から砂浜へと向かう。そして気の影から泳いでくる人数を数える。


「今月は十人か。少ないな……」


 今回捨てられたのは十人。その中の見覚えのある顔があった。


「あいつは確か賞金首の……」


 リュートが知っていた男がまず最初に砂浜に辿り着いた。


「くっそがぁぁぁっ! 下手打っちまったぜっ! おいっ、早く上がってきやがれっ!」

「「「「ひぃっひぃっ!」」」」


 上がってきたのは全員が男だ。


「か、頭ぁ……、俺達どうなっちまうんすか……」

「あ? さぁな。とりあえず魔物を狩るのはナシだ」

「え?」

「見た所砂浜には魔物が現れねぇようだ。つまりよ、ここにいりゃ安全ってこった」


 リュートは思った。


(バカだなあいつは)


 すると手下の男が言った。


「け、けど……食糧はどうするんですか」

「あん? 目の前海があんだろうが。釣るなり潜るなりすりゃ食べ物は手に入るだろ」

「な、なるほど! では釣竿と銛は……」

「……あるわけねぇだろ。武器の類いは全部没収されちまったからな」

「「「「頭ぁ~……」」」」


 リュートは仲間にする事を諦め、剣を握り締め砂浜へと向かった。


「か、頭っ! 森から人がっ!」

「あん?」


 頭が後ろを振り向くと鉄仮面を被ったリュートがそこに立っていた。


「……なんだテメェ……。んな上等な装備……どっから手に入れたよ?」

「言う必要はないな。賞金首。お前は黒犬だな?」

「おぉう、知ってんのか。いかにも、俺ぁこの盗賊団を率いる黒犬よ。お前は?」


 リュートは剣を構えこう告げた。


「悪党に名乗る名などない。お前達は害にしかならないと判断した。よってここで終わらせる。死ね」

「ちっ! 死んでたまるかよっ!!」


 盗賊達は体術と数の利で抗おうと試みるが徒労に終った。


「スキル【飛斬】っ!」

「なっ! があぁぁぁぁっ!?」

「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」


 リュートの振った剣から見えない斬撃が飛ぶ。その攻撃は盗賊達の急所を斬り裂き、生を終わらせていった。頭も脇腹を斬られ地に膝をついていた。


「げふっ……、ば、ばかな……っ。俺達があっという間に……ぐふっ……! い、いったい何が……」

「お前達の血でこの剣は汚したくないのでな。悪いが飛ぶ斬撃で斬らせてもらった」

「飛ぶ斬撃……。お前まさか……戦場の死神……青鬼リュー……」


 そこまで言いかけた盗賊の頭が地に転がった。


「その名は捨てた。俺はただのリュート。今はそれで良い。いつか聖神教団と剣を交える時までその名は封印だ」


 リュートは死体を海に流し拠点へと戻るのであった。

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