第4話 拠点作り

 一致団結したトーレス達はまず拠点を作る作業に入った。拠点を作る場所は砂浜から少し森に入った場所に作る事にした。理由は監視にバレないためである。もし拠点など作っている事がバレでもしたら教団員が反逆の意志があると見て島に乗り込んでくる可能性がある。魔物だけでも今のトーレス達には手に余る。そこに教団員も混じっては全滅必至だ。なので拠点は海岸から少し森に入り海から見えない場所に作る事にしたのである。


 まずリュートが先行し、安全を確保する。それに続き男達がトーレスの作り出した農具で草木を切り分け、森を開墾していく。その間にトーレスは【デザイナー】のギフトを持つ女性【アゼリア】達と建物の設計に入り、拠点の設計図を作成していった。


「まず外壁は当然必要よね。トーレスくん、例えばだけど……外壁の材質をリュートの持っている剣と同じに出来たりする?」

「うん。絵を描きながら材質とか特性を強くイメージすると出来ると思うよ」

「よし、じゃあまずは外壁から作っていきましょ。これはとある国の堅牢な要塞で使われているらしいデザインみたいなんだけど……」


 アゼリアの知識はトーレスの可能性をどんどん引き出していった。小さな村での知識しかなかったトーレスにとってアゼリアの描く絵は物凄くインスピレーションを受ける。


「凄いなぁ~。僕じゃこんなの全然思いつきもしないよ」

「凄いのはこれを最初に作った人じゃないかな。私はただその知識を流用してるだけだもの」

「それでもだよ。アゼリアがいて本当に良かった」


 言っておくがトーレスは好青年である。そんなトーレスから真っ直ぐな感謝を向けられたアゼリアは顔を真っ赤にしていた。


「アゼリア?」

「んんっ! と、とにかく! 外壁のイメージはこれよ! 男たちが地面を均し終えたらまず外壁を作るのよ! そうすれば安全に建物を作れるはずだからね」

「そうだね。じゃあ僕は外壁についてイメージを整えていくよ。その間にアゼリアは拠点となる建物をお願いできるかな?」

「わかったわ」


 その頃男達はというと。


「なぁ、俺達の仕事地味じゃね?」

「地味だけど土台がしっかりしてなきゃ建物は建てられないからな」

「それに比べリュートは良いよなぁ……」


 リュートは剣を片手に魔物と奮闘していた。


「ははははっ! もっと来いっ! 俺の聖剣は血に飢えているぞっ!」


 襲い掛かってきているのはウルフやスモールベアといった比較的弱い魔物ばかりだ。数もそんなに多くはないが森を切り開く度に魔物が現れる。リュートはまだ戦えない男達を守りつつ、戦いを楽しんでいた。


「「「リュートさぁぁん! 頑張ってぇ~!」」」

「「「「くっ! これが格差かちくしょう……!」」」」


 それでも男達は腐らず開墾を続けていった。男達は早く拠点を完成させ自分も戦いで女性陣にアピールしようとそれはもう頑張った。


 そうして頑張る事二週間、森の中に直径二キロにもなる円形の更地が出来上がり、その更地を囲うようにリュートの剣と同じ材質の堅牢な外壁が完成した。門も同じ材質にし、滑車を利用した手巻き式の昇降機で開閉できるようにアレンジも加えられていた。


「おいおい……、伝説級の金属をこうも贅沢に使うなんて……」

「さすがトーレスだ。こいつは魔法も弾くしS級の魔物が体当たりしても傷一つ付かない金属だからな。これでこの外壁の中は安全地帯になったな」


 そこで男の一人がリュートに問い掛ける。


「でもよぉ、魔物の中には空を飛ぶ奴もいるだろ? ワイバーンとかさ」

「うむ。そこは仕方ない。現れない事を祈るしかないが、この二週間で戦った魔物はどれもDクラスの魔物ばかりだった。おそらく魔物にもテリトリーのようなものがあるのだろう。まだ安心は出来ないが奥に進まなければ遭遇することはないと思う」

「テリトリーか。魔物にもそんな獣みたいな習性があったとはなぁ……」


 外壁が完成するまで二週間。もう二週間弱で新しい被害者が送られてくる。同じ場所に捨てられるなら救えるが、もしここから離れた場所に捨てられたらどうにもならない。


 シュウがリュートに言った。


「リュート、俺達は拠点作りに協力していく。現在唯一戦えるリュートは二週間経ったら海岸の監視を頼めるか?」

「ああ、任せておけ。これからも毎月犠牲者が送られてくるのはわかっている。全てを救えるかはわからないが発見し次第選別してここに連れてくるつもりだ」

「選別?」

「そうだ。幸い俺達の中に悪人はいなかったが、これから先悪人が来ないとも限らないからな。もし悪人がトーレスの力を悪用したら困るのは俺達だ。だから俺が選別する」


 シュウが眉をしかめる。


「リュート、お前……人を殺した事が……」

「……ああ。俺は傭兵だ。幼い頃から父に技を習い父が戦場で命を落としても俺は戦場で戦っていた。この手は数えきれないくらいの命を奪っている。今更どうと言う事はないさ。そして、聖神教団と刃を交えると言うならいずれお前たちにも対人戦を経験してもらわなければならない。だが……まずは訓練からだがな」

「……やってやるさ。だから……早々にくたばるんじゃねぇぞ?」


 そう言い、シュウは拳を前に突き出した。


「……ふっ、この剣を得た俺は無敵だ」


 リュートはニヤリと笑いながらシュウの突き出した拳に自分の拳を合わせた。


 そしてトーレスはと言うと。


「拠点になる建物はこれで良いの?」

「ええ。あまり高い建物だと海から見えてしまうもの。無骨だけど二階建ての建物が良いと思うわ。で、それだとあまり人が住めないから、まず中央にこう円形の建物を作るでしょ? そしたら左右に真っ直ぐのばして……こんなコの字型にしてみたら良いんじゃないかな? これだと右は男子棟、左は女子棟って分けられるでしょ?」

「なるほど。じゃあこの円形は?」

「円形の一階は食堂にしましょう。で、二階はトーレスくんの私室と会議室かな」

「え? 僕中央に一人で住むの!?」

「そうね……うん、中央には女性代表と男性代表の私室も作りましょう。で、代表が各棟の要望なんかをまとめてトーレスくんに報告できる感じでどうかしら?」

「代表はどうやって決めるの?」

「そうねぇ~……女子代表は私で良いとして……」

「「「待たんかい」」」


 アゼリアの言葉に女性陣から総ツッコミが入った。


「な、何かしら?」

「それはないんじゃないかなぁ~アゼリアちゃぁぁん?」

「そうよ! チャンスは皆に平等に与えられるべきだと思うの」

「チ、チヤンスってなによ?」

「わかってるでしょう? 私達全員成人女性。最高の男性が目の前にいるのに退けますかっての!」


 なにやら不穏な空気が漂い始めた。


「な、なにこれ……?」

「バカ、トーレス! 巻き込まれるぞ! 早くこっちに来い!」


 いまいち何が起きているかわかっていないトーレスの腕をシュウが引き女性陣から引き離した。


「トーレス。あれが人型肉食獣だ。油断してると喰われるぞ。絶対に俺から離れるなよ!」

「えぇぇ……」


 そして女性陣は代表を決めるため醜い争いを繰り広げるのだった。

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