第3話 決起

 女性達が服を乾かしている間にトーレス達男組はこれからどうするか話し合っていた。リュートが全員に話し掛ける。


「この中に戦える者はいるか?」

「「「……」」」


 その問い掛けに誰一人顔を上げる者はいなかった。つまりこの場には今リュートしか戦える者がいない事になる。由々しき事態だ。


「いない……か。困ったな。これでは魔物に襲われでもしたら全滅……もしくは甚大な被害が出てしまうぞ」


 すると男の一人が手を挙げ発言する。


「な、なぁ。なにもこの島に送られたのは俺達だけじゃないだろ? 先に送られている奴らがいるじゃないか。そいつらと合流したらダメなのか?」

「それは期待しない方が良いだろうな」

「な、なんでだよ?」


 リュートは呆れながら男の提案に答えた。


「俺達のように使えないギフトを持った者達がここの魔物相手に何年も生きていられると思うか?」

「……あ!」

「ギフトは持ち主が被らないようになっている。何年も使えないギフトが巡り続けているのは持ち主が死んでいるからだろう。つまり、この島には生き残りはいない。そう考えた方が自然だ」


 男達はがっくりと肩を落としていた。だがそんな男達を励まそうとシュウが口を開く。


「まぁ、俺達はそんなに落ち込む事はないんじゃね?」

「な、なんでだよ?」


 シュウは砂浜に座るトーレスの肩を抱き男達に言った。


「俺達にはこのトーレスがいるからな!」

「ぼ、僕っ!?」

「おうっ。リュートの剣はこいつのギフトで創造した剣なんだよ」

「「「「そ、創造っ!?」」」」


 男達が立ち上がる。


「バ、バカな!? 創造系なんて大当たりギフトじゃないか! そんな奴がなんで島流しに!?」

「審問官がポカやらかしたみたいでよ。たまたまトーレスの知らない物を創造させちまってな。ゴミ扱いされちまったらしい」

「……そ、そいつはまた災難だったな」


 男達は憐れみの表情を浮かべていた。だがリュートとシュウは怖いくらいの笑顔だ。


「トーレスにしたら災難だがよ、俺達にしちゃラッキーだったよ」

「そうだな。トーレスがいたらこの島に家とか簡単に作れちまう。恐らく今まで送られてきた奴らは野宿か枝や葉っぱを使った簡素な物しか作れずまともに休む事も出来なかったはずだ。休息はなにより大切だ。拠点があるとないとでは雲泥の差だろう」


 そこに乾いた服を着た女性陣が合流してきた。


「ねえ、今家が作れるって聞こえた気がするんだけど……」

「お、乾いたか。確かに言ったぜ? このトーレスさえいればこの島でだって快適に暮らせるかもしれねぇんだよ」

「ほ、本当に? 私達死ななくても良いの?」


 するとトーレスの作った剣を掲げリュートがこう宣言した。


「ああ。魔物はトーレスが作ってくれたこの剣で俺が相手をする。俺達は何がなんでもトーレスを守り、この島で生き抜く! そしてこれから送られてくるだろう同胞を集め聖神教団の奴らに復讐するのだ!! 俺らはギフトが役に立たないと言うだけでこんな烙印まで押され島流しにされた……っ!」


 リュートは剣を掲げる手の甲を全員に見せる。その場にいた全員が自分の手の甲を擦った。


「いつまでもこんな事が許されていいわけがないっ!! 皆で力を合わせ仲間を増やそう! 協力してくれたら俺とトーレスが安全な生活を約束する!」

「ちょ、俺は!?」

「……お前達男連中にはまず剣の扱い方を学んでもらう。いや、槍でも弓でもなんでも良い。とにかく戦う術を教えるからまず力をつけろ。魔物を倒すとレベルが上がる。ギフトではないスキルは鍛練で身に付くからな」

「……おう、やってやるぜ! なあ、お前ら!」


 奮い立つシュウに引かれるかのように男達が立ち上がる。


「ああ、やってやる! たかだかギフトが役に立たないだけで舐められてたまるかっ! 俺はやるぞっ!!」

「そうだな。何もしないで死ぬのは嫌だからな。俺も戦うぜ!」

「聖神教団がなんだっ! あんな奴らが神に愛されてるわけがねぇっ! 俺達の神はトーレスだ! かつての魔王のように奴らに抗ってやろうぜ!!」

「「「「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」


 その盛り上がりにトーレスと女性陣は完全に置いてきぼりを食らっていた。


「ねえ、トーレスくんは何ができるの?」

「あ、うん。僕は絵に描いた物を具現化出来るんだよ」

「え? 凄い! じゃあ服とか出せるの?」

「出せるには出せるけど……女性の服は描いた事ないよ」

「ふっふっふ。そんなトーレスくんに朗報があります!」

「え?」


 トーレスに話し掛けた女性が自慢気に言った。


「私のギフトは【デザイナー】です」

「えっ!?」

「私のデザイナーは世界にある全ての服や建物の知識を引き出して描けるのよっ」

「す、凄いギフトじゃない!?」

「……そう思う? 既存の物しか書けないから役に立たないギフトなんだけどね」

「いや、僕のギフトと合わせたら何でも作れるじゃないか! 凄いギフトだよ!」

「私もそう思う。大陸では役に立たないだけでここでは役に立つわ」


 そこに女性陣が群がる。


「私のギフトは【紙製造】です!」

「私は【インクジェット】よ!」

「私は【パティシエ】ですぅ~」

「私は【三ツ星シェフ】よ~」

「わ、私は……」


 役に立たないと言われたギフトでもこれだけ集まれば何でも出来そうだ。聖神教団の基準は戦えるギフトに重きをおいているため、皆は日常から外されてしまったのである。


「私が描いた絵をトーレスくんがトレースしたら何でも出来るわね。トーレスくん、仲良くしましょうねっ」

「は、はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 そう盛り上がるトーレスと女性陣を男達は冷めた目で見ていた。


「……許せんな」

「全くだ。女を独り占めとは……」

「あれは敵だ……! だがトーレスがいないと俺達は何もできんっ! く、くやしぃぃぃぃっ!」


 そんな男達にシュウが言った。


「なら早く強くなって頼れるアピールすれば良いさ。今一番頼れるのはトーレスなんだ。仕方あるまい」

「「「「強くしてくれぇぇぇぇぇぇぇっ!」」」」


 こうしてトーレス達は一丸となり、パンドラで生き抜く意志を固めるのだった。

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