第2話 パンドラ

 魔王を失った今でも日々大量の魔物を生み出し続けている島【パンドラ】。邪教徒と認定された者は等しくこの島へと送られ、魔物を討伐させられている。この島から脱出する事は不可能だ。沖合には島を監視する船が常に停泊しており、脱出者を発見しては断罪している。邪教徒認定されたものは死ぬまでこのパンドラで魔物を狩り続けなければならない。そんな島に今トーレスは足を踏み入れた。


「はぁっはぁっ、や、やっと着いた」


 あまり体力のないトーレスは他の者よりだいぶ遅れようやくパンドラの砂浜に泳ぎ着いた。他の者はすでに上陸しており、海水で濡れた服を脱ぎ乾かしていた。


「よぉ、お前もこっちきて服乾かせよ。海水は乾いたら臭いからな」

「あ、うん。ありがとう」


 トーレスは焚火の近くにいた男に促され服を脱ぎ枝に掛ける。


「俺は【シュウ】ってんだ。あんたは?」

「僕はトーレス。よろしくね」

「トーレスか。んじゃ早速。トーレスのギフトって何?」

「え?」


 トーレスは驚いていた。この世界ではギフトは他人に話すものではないと教えられている。能力次第では悪用されかねないからだ。


「ギフトって教えちゃだめなんじゃ……」

「バカ、ここには使えないギフトを持った奴しか送られねぇんだ。知られた所でどうでも良いだろ。ちなみに俺のギフトはこれな」


 そう言うとシュウは人差し指の先から小さな炎を出して見せた。


「魔法?」

「ちげぇよ。これが俺のギフト【ライター】。魔法だと思っただろ? そうだよ、しかも魔法の方がこんなちんけでしょぼい炎より何万倍も使える。その程度なんだよ、俺のギフトはよぉ~……」


 そう言いつつ、シュウは炎を消して落ち込んだ。


「じ、十分じゃないか! ギフトは魔力を消費しないし……。そ、そうだ! 爆発鉱石に火をつけて投げれば十分……」

「お前……優しいなぁ~! で、そんなお前のギフトは?」


 トーレスは言うかどうか迷った末、シュウには教える事にした。これからこのパンドラで生き延びていくためには仲間がどうしても必要になる。特にトーレスの得たギフトは物によっては発動までとんでもなく時間がかかる。戦闘向きにのギフトではなかった。


「僕の得たギフトはこれ、【鳥獣戯画】」


 そう言い、トーレスは砂に絵を描いていく。描いた絵はリンゴだ。トーレスがリンゴをイメージしつつ絵を完成させると砂浜にリンゴがポンッと現れた。


「……は? 絵、絵がリンゴに!? ちょっと待てよ! これのどこが使えないギフトなんだよ!? こいつは創造系と言われる当たりギフトじゃねぇか!」

「いえ、それが……審問官の前で描いた絵は上手く発動しなくてですね」

「いやいや、それでも創造したんだろ? 外れギフトじゃねぇじゃん」

「いや、外れだよ」

「「え?」」


 そこにもう一人男がやって来た。青い髪を伸ばし適度に鍛えられた良い体をした男だ。


「それは強くイメージしなきゃ発動しないのだろう? なら……見たことがない物や知らない物は創造出来ないって事になる。例えば船にしてもそうだ。上辺だけは描けても中身までは描けないしイメージも出来ないだろう?」

「……はい」


 確かにギフトの説明の際に大砲を描けと言われ描いたが生まれたのは張りぼてだった。それは中身や仕組みを知らなかったからである。


「知っている物しか生み出せないなら外れギフトだ。審問官にはそう言われたのだろう?」

「はい。落胆した様子で」


 すると男はニヤリと笑って見せた。


「くくく……ははははっ!」

「「?」」


 トーレスとシュウはその様子に首を傾げていた。


「くくくっ、バカな審問官もいたものだ。よし、これで生存率が少し上がったな。なぁ、お前たち。俺達で組まないか?」

「組む?」

「そうだ。こんな魔物だらけの島で生き延びるためには仲間が必要だ。俺は【リュート】。こう見えて傭兵を生業にしていた者だ。武器なら一通りなんでも使える。どうだ、協力して生き延びないか?」


 そこにシュウが口を挟む。


「ちょっと待った。お前さ、武器持ってないじゃん?」

「だから声を掛けたんだよ」

「は?」


 リュートがトーレスを見て頭を下げた。


「トーレス、俺に剣を作ってくれ」

「剣……ですか」

「ああ。どんな剣でも良い。ただ、イメージをする時にだな……」


 リュートは自分の要望をどんどん口に出し説明してきた。それを聞きシュウは呆れていた。


「お前な、そんなバカげた剣なんて出来るわけないだろ!?」

「いいや、出来る! やりもしないで決めつけるのは良くない! さぁ、トーレス! 俺に地上最強の剣をくれっ!」


 クールに見えたのは外見だけだった。リュートは強いがただの剣マニアだったのである。


「振れば炎が出る剣とかどうやって想像するのさ……。絶対に折れない剣なら出来そうだけど」

「え? 出来るの?」

「おおっ! それでも良いっ! とにかく俺に剣を!!」


 トーレスはその熱意に負け、再び砂浜に絵を描いていく。


(絶対に折れない剣……。固い物を斬っても欠けずに切り裂く剣……)


 線の一本一本に強くイメージを乗せ形作っていく。そうして出来上がった剣は虹色に光り輝いていた。


「す、素晴らしい……! まるで芸術品のような剣だ……!」

「この輝き方ってさぁ……オリハルコンじゃね? あの伝説の金属のさ」

「わかんないよ。とにかくイメージを強くしたらこれが産まれたんだ」


 リュートは剣を握り素振りを始めた。


「軽い。だが物凄い強度だ。ちょっと試してみるか」


 リュートは砂浜にあった岩を目掛け剣を振り下ろした。


「折れるって!」


 シュウはそう叫んだが、リュートの振り下ろした剣は岩をまるでバターでも切るかのように簡単に真っ二つにしてしまった。


「嘘だろ!?」

「お……おぉぉぉっ!? 刃こぼれもない! しかも斬った感触もまるでなかった! 凄すぎるぞ!」

「良かった、ちゃんとイメージ通りに作れたみたいだ」


 そうしているとようやく砂浜に女性たちが辿り着いた。それを見たトーレスはシュウに声を掛ける。


「シュウ、ほら出番だよ?」

「あん? しょうがねぇなぁ。お~い」


 こうしてトーレスは頼れる仲間を見つけ、これからパンドラでの暮らしをどうしていくか考えるのだった。

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