使えない認定されたギフトを授かった僕が、仲間を集めて追放した世界の支配者に抗います!

夜夢

第1話 日常からの追放

 ここは剣と魔法がある地球とは異なる世界【リヴァイアース】。この世界では科学の代わりに魔導工学といわれる技術が発展し、魔力があれば誰でも快適な生活を送る事が出来る世界となっている。


 だがどんな世界にも必ず悪と呼ばれる者が存在し、また弱者と呼ばれる者も存在する。それは誰でも快適に過ごせるこの世界も例外はない。


 この世界では産まれた時に神より【ギフト】が授けられる。このギフトと呼ばれるものはスキルとは違い生後取得する方法は一切存在しない。そしていつしか人はこのギフトに翻弄されるように争うようになっていった。加えてギフトは人のみならず、人にとって脅威となっている魔物と呼ばれる存在や、敵対する種族にも等しく与えられている。


 この世界にはかつて【魔王】と呼ばれる者が存在し、魔王は魔族や魔人と称される種族を率い、長きにわたり人族と争い続けてきた。争いは文明の発達を促す。奇しくも今ある便利な生活はこの魔王と人族の争いから発した産物なのであった。


 その魔王との戦いが終結したのが今から千年前。魔王は【勇者】と呼ばれる者たちの手により討伐されたのである。ギフトは他者と被る事はない。その所有者が命を終えた時、また新たな者の身に宿る。しかしそれは所有者が命を終えた翌日か、はたまた百年後か千年後か、再び宿るのか消えるのか、全ては神の意志により決まる。


 今ではかつて起きたこの戦を【人魔大戦】と人々は呼んでいる。そして千年後の今も魔王と呼ばれた存在が所持していたギフトも勇者と呼ばれる者たちが所持していたギフトも確認されてはいない。


 世界は今平和に満ちていた。だがそんな平和な世界だからこそ生まれる争いもある。


 人はギフトを神から授かる愛だと錯覚し、良いギフトを得た者は神から愛されていると位置づけるようになり、人をギフトで格付けするようになってしまった。この格付けにより良いギフトを得た者は優遇され、使えそうにないギフトを得たものは迫害されるように世界は進んでいった。


 こうした世界へと進めた存在が【聖神教団】と呼ばれる者たちであり、現在の世界を実質支配している。その存在は自分たちを神の代弁者であると吹聴し、今では世界中に支部をもつ。有能なギフトを確認したら教団にスカウトし、従わない場合は世界から排除する。この行いを数代繰り返し、世界は聖神教団と弱者に二分されていった。そして聖神教団に逆らうものは【悪】と呼ばれるようになっていった。


 そんな世界で今日とあるギフトを授かった者がいる。ギフトは成人したと同時に発現する。この世界では【成人の儀】があり、ごの儀式は聖神教団が執り行っている。理由は言わずもがな良いギフトを持つ者の選別だ。ここで教団は団員をスカウトするのである。良いギフトを授かったものは教団に強制入団させられ、従わない場合は断罪される。そして平凡なギフトを授かったものは手の甲に焼き印を押され、邪教徒として認定される。この焼き印を拒んだ時点で従わない者同様断罪されるのである。世界は確実に歪んでいた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ふむ、認定完了だ。ギャレス王国ミュラン領所属ルスツ村出身の【トーレス】。お前を今日この時より邪教徒と認定し、島流しとする。連れていけ」

「「はっ!!」」


 彼の名はトーレス。貴族ではないので家名はない。今日十八歳となり成人したばかりのまだあどけなさの残る少年だ。一見して女性と見間違われそうな容姿は美少年と村で話題に上るほどだ。そんな美少年であるトーレスの綺麗な手に一見して邪教徒とわかるような醜い焼き印が今押されたのである。


 トーレスは痛む手を押さえながら審問官をにらむ。


「な、なんでこんな……!」

「なぜ? それはお前が神に愛されていないからだ。お前の授かったギフトははっきり言って何の役にも立たないゴミだ。神に愛されていない者は神の愛する人として生きる価値すらない。いくら顔がよかろうがな」


 審問官は醜く肥え太った豚の様な容姿で下卑た笑みを浮かべながらトーレスを見る。その行いはとても聖職者には見えない。


「そんな価値のないお前でもこれから神に愛される者たちのために働ける場所に送られるのだ」

「な、なんだって?」

「かつて魔王が治めていた島【パンドラ】。そこでは今も無限に魔物が湧き出し世界に放たれ続けている。お前たち邪教徒はそんな魔物の脅威から世界を救う役割を与えられるのだ。聖神教団は慈悲深いだろう? くははははっ!」


 これが自分たちは神に愛されていると自称している聖神教団の本質だ。自分たちは力のある者を集め世界で欲望の限りを尽くす。そして自らが働かない代わりに弱者を邪教徒と認定し、自分たちは安全な場所で贅沢を謳歌する。今の世界は歪みに歪みきっていた。


「さっさと連れて行け。そいつの顔を見ているだけで不快だ」


 こうしてトーレスは教団員に強制連行され、パンドラへと向かう船に押し込められた。


「うう……、俺のギフトでパンドラなんて行ったら死んじまうよぉっ」

「なんで私がこんな目に……! 毎日祈りは欠かさなかったのに!」


 船には今月成人を迎え、邪教徒として認定された者たちが押し込められていた。パンドラへと船が出るのは月に一回だけ。船は二週間かけパンドラへと向かうのである。その間与えられる食事は腐ったパンと具のないスープが一日一食のみ。邪教徒は人間扱いされないのである。


 移動中、邪教徒間での争いは禁じられており、もし争いを起こした場合はその場で断罪され魚の餌となる。そして二週間後、船はパンドラの沖合五百メートル地点で停船し、邪教徒たちを泳がせて島に向かわせる。これは島から脱走者を出させないためだ。ここで泳げない者はその命を終える事となる。なのでこの世界の住人は子供の頃から泳ぎを教えられるのである。


 教団員は海に浮かぶトーレス達を見て笑い声を上げながらこう言い放った。


「じゃあな、邪教徒ども。精々俺達優秀な人間のために魔物を減らしてくれ。はははははっ!」


 全ての邪教徒を荒れ狂う海へと放り投げ、船は島から離れていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る