第14話 中身があれば、相当な値がつく
カリッ、もちもち。ジュワ〜っ。
ラーィズは食べ始めるとあっという間になくなってしまう。
「武闘大会は毎年あるんでしょ、どうして今年にかけてるの?」
花はラーィズの塊をごっくんと飲み込んでから聞いた。
「入賞者が入団試験に招かれるのは10年に1回だ」
アデルモはあっという間に大きなラーィズを平らげた。余程お腹が空いていたらしい。
〈白塔騎士団は騎士階級の見習い騎士や貴族の子弟を採用します。ですが、10年に一度だけ武闘大会の入賞者を入団試験に招きます。合格すれば札を持たない地方の平民も騎士としての身分が与えられます。
帝国歴70年から194年のデータを平均すれば、当該年度のみ参加者は216%増加します〉
「今はいい、だけど10年後に試験に通してもらえるか?」
彼の言うことはもっともだった。貴族や騎士階級の弟子と違って、武闘大会から引き上げられる者は腕が全てだ。10年を短いとは言えない。
アデルモは彼の夢と、大切な人の遺言のために今を生きている。彼がこれだけ必死なことと、バルバラが場を設けてまで預け先を探していた理由。花はそれを何となく理解した気がした。
花とアデルモもいくつかの店に寄り、必要な物を買って家を目指した。
洗剤や石鹸は思ったより重かったが、騎士を目指しているとだけあってアデルモは難なく持ち運んだ。
アデルモの勤務時間に充分間に合うように店を出た。帰り道、おもむろに花は口を開く。
「……朝食はうちで用意するわ」
「朝食を?」
アデルモは面食らった。
「つまり、家に朝食付きってこと。応援って言える程じゃないかもしれないけど」
「……本当にいいのか?」
「朝食だけよ、大騒ぎするような事じゃないわ」
〈二人、三食共にすることで食材の消費効率が約1.5倍になります。全食を共にされては?
〉
「考えとく」
「何を?」
アデルモは不安そうに胸元のペンダントの膨らみを撫でた。
「なんでも。ところで、それは何?」
花に指さされてアデルモは服の中からペンダントを取り出した。実際目で見るそれは波打つ形の透明の瓶だった。見覚えがある。
「俺が拾われてた時に持っていたらしい。幻の万病の薬……? 信じられないが」
エッポの骨董店だ。あそこで見た。
豪華な骨董品に混じって小さな瓶が紛れていたのだ。確か……。
「中身があれば、相当な値がつく」
「これが? 本物か分からないが」
「試してみる価値はあるわ。鑑定だけでもしてもらったらいし」
〈かなり精緻に出来ています。中身までは鑑定は難しいですが、形状とサイズはエッポの骨董店のものと寸分も違いません。
少なくとも瓶は同じものでしょう〉
アデルモは複雑そうな顔をした。喜んでいいのか、手放してもいいのか悩んでいる様子だ。
「明日の朝、またその時に決めていいか? 一応……大切なものだから、鑑定するにしても覚悟を決めたい」
「もちろん」
家ではシラーが待ち構えている。花はどうやってシラーを紹介するか悩んでいた。
やがてもう家に着くという頃、聞き覚えのある声で言い争うのが聞こえた。
「ダメよ! 捨ててきなさい!」
「わあああん」
女の子の声、泣いている。ぎょっとして立ち止まる人もいたが、母親の剣幕に声をかけるにかけられないようだ
「あなたを養うので精一杯なのよ! その上犬なんて飼えるわけが無いでしょ!」
母親は驚くほど必死で、怒っている筈なのにその目には涙が溜まっていた。
「捨ててくるまで家には入れないからね! 分かったらさっさと行きなさい!」
そう言うとバタン、と強く扉を閉めた。ご丁寧にガチャガチャと鍵までかけて。
花とアデルモは目を見合わせる。泣きじゃくりながら腕で何かを抱えて扉から離れる女の子に見覚えがあったからだ。
「カーヤ?」
「カーヤか?」
カーヤはあまりにも泣きじゃくって何を言っているかさっぱり分からなかった。
〈マスター、まずは安心出来るような声をかけ、それからゆっくり話を聞いてあげてください〉
シラーはこの方面の資格でも取っているようだ。AIなら当然かもしれないが。
「カーヤ、大丈夫?」
「うぅっ、ひっく……クネーが、クネーがぁ。ごはんたべてくれないの!」
そう言ってまた、カーヤはしゃくりあげた。
カーヤが差し出した腕の中の犬はぐったりとその場に横たわっている。
アデルモは痛ましそうな表情で犬を見ると、ちらちらと花の方を見た。家主だからだ。
「ママも、だめって、家においてもどうしようも無いから捨ててきなさいっていうの。やだあ……」
花は敢えてアデルモに視線を合わせるとウン、と頷いた。
アデルモは荷物をそばに置き、カーやと視線を合わせるために膝を折った。
〈マスター、病状診断を開始しますか? なお、最終的な診断は必ず獣医師の確認により行うようにしてください。
Aiはあくまであなたををサポートします〉
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