第4話 片っ端から集めてやるわ
花は考えた。異世界転移とは、理想のスイートライフを始めるためのリセットスイッチではないかと。
なにより、ここは異世界! 珍しいものがたくさんあるに違いない。
心が躍って仕方ない花は、ドライヤーで髪を乾かしながら鼻歌を歌った。
「シラー、私、このリューなんとか帝国の貴重なものや珍しいもの、片っ端から集めてやるわ! 協力してね」
〈はい、マスター。快適で優雅な毎日のお手伝いをします〉
花はドライヤーを仕舞うと、外出用のワンピースを着た。ブラトップや伸縮性のある服を選んで、今の体でも違和感なく着用できている。掃除機を掛けないと、と思ったが、四角いロボット掃除機が静かに浴室の方へ走ってきた。
「ありがとう、シラー」
〈どういたしまして〉
ふむ、人工知能、なかなかやるな。
エアコンをつけていないが、室温は過ごしやすい暖かさだった。花は軽い上着を羽織って倉庫へ向かうことにした。
倉庫はマンションの一階、メールボックスの隣にある。
〈マスター、
シラーの言葉に花は怪訝そうな表情を浮かべながらゴソゴソとシラーの付属品をあさった。それらしい一対の薄っぺらな機械が見つかる。
〈耳の後ろに装着します。
花はたどたどしい手つきで耳の後ろに通信機を装着した。付けてみると思ったより違和感なく馴染んでいる。
「これって何で通信するの? 異世界ってインターネットあるのかな」
〈インターネットはありません。限定的な代替措置を適用可能です。魔術師グリューネヴァルトの発見した各人固有の波動、
「うん、
[システムを魔術波モードに適応中……]
魔術波ってなんなのだろう? と思っていると、相変わらず測ったようにシラーが説明を加えた。人間や動物が固有にもつ魔力の波動のようなものらしい。
魔術師の指紋みたいなもので、魔力を込めたり魔法を使ったりすると僅かに発せられる。この世界では遠隔で魔法を発動させたり、魔力を貯めておいたりするのに自然に使われるそうだ。
(異世界の魔法かあ)
にわかには信じられない、まだ”ちゃんとした”魔法も目の前で見ていない訳だから。
とりあえず外に出てお昼ご飯でも食べてみよう。見てみたら何か珍しい物が見つかるかもしれないから。
そう思って花は鞄の準備を始めた。財布の中身は出しておかないとと思ってチャックを開けると、中には見覚えのない硬貨がずっしりと入っている。
〈リューデストルフ帝国の硬貨と、木製の札です。現地の価値に合わせて変換されています〉
「よかった、お金どうしようかと思ってたんだよね。でもシラーを買ったから結構すっからかんだな、大丈夫かなあ」
シラーは沈黙した。考え込んでいるのか、この人工知能は時折人間っぽい間を置いて話すことがある。
〈恐縮です。マスターが快適に生活できるよう、効率のいい収入源の確保をタスクに加えます〉
花は安堵して財布を鞄に入れた。時計を見るとそろそろ12時を回る頃合だ。
外へ出ようとした時、シラーが花を止めた。
〈その服では些か破廉恥と思われるかもしれません〉
花は自分の服を見る。ストッキングに膝丈の紺のスカート、それからシンプルな白のブラウス。ミニスカートでもホットパンツでも無いが、そんなにおかしかっただろうか。
〈帝国では下半身の露出は非常にはしたない事とされております。春を売る踊り子すらショースを履いて踊ります〉
「ショース?」
〈昔ヨーロッパで用いられたタイツのようなものです。つま先から膝下、あるいは足の付け根までを覆うように使います〉
「暑そう……」
花はため息をついてボトムスを漁りに行った。ハレンチな女が歩いてるぞ! なんて目で見られるのは嬉しくない。
あれこれと服を引っ張り出して、ようやくマキシ丈のスカートを見つける。シラーからは、屋敷の使用人っぽいですが大丈夫でしょうと合格を貰った。
「ところでシラーはどうしてこの国に詳しいの?」
〈ローカライズ時に基本的な情報を取得しました。ただし機能を作成した魔術師の知識に偏りますので、圧倒的なデータ不足と言っても過言ではありません〉
「なるほどね〜、外に出たらこの
〈勿論です。そうしてこそ真価を発揮できるでしょう〉
何だかシラーの声に自信ありげな様子を感じたのは気の所為だろうか? 買った時よりもなんだか人間っぽさが垣間見えるようになっている。それもローカライズ、というやつなのか。
〈では、これから音声は
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