第12話 7月31日(月)

 香織に頼んだ昨日、一昨日のデータ入力を確認していると、香織が僕の後ろを見やり、「あら、森田さん。こんにちは」と声をかけた。昨夜もいばフェスの会場で会ったはずなのに、蛍光灯の下で見る顔の黒さに少々驚いた。

 挨拶も程々に、香織にお茶を入れてもらうように頼んで、森田さんと共に応接スペースへ移動する。

「月末の月曜日に時間とってもらって、ゴメンね。今日も、例の撮影?」

 彼は頷きながら、「今日というか、昨日の深夜から今朝の早朝までですね」と言った。

「じゃあ、昨日、あの後から?」

「子供らのお風呂と寝かしつけもやってから、ですけどね」

「さすが森田さん、お義姉さんに任せっきりのウチの兄貴とは全然違うわ」

 香織は、グラスに氷も入れたアイスコーヒーをコースターと共に森田さんの前に置いた。ガムシロップとフレッシュも手元に置こうとするが、彼は「ありがとうございます」と言いながら、ストローだけ受け取った。

「そのまま起きっぱなし?」

「いえいえ。明け方に撤収して、家に帰ってから仮眠、お見送り、二度寝でココですよ」

 先に寝ている奥さんを起こさないように帰宅して、朝は普段通りの時間に起きて食卓についている彼の姿が容易に想像できた。

「じゃあ、銀行回りは今からだ」

 森田さんは「そうなんですよ。とにかくバタバタで」と言いながら、グラスにストローを刺してコーヒーに口をつけた。彼がチラリと目をやった時計を見ると、そろそろ13時を指そうとしている。あんまり、のんびりやらない方が良さそうだ。

 僕は早速タブレットを操作して、カレンダーを表示する。

「例の親睦会、この辺の日程でどうだろう?」

 明日から始まる8月、二週間先の週末あたりから「夏季休業」のスケジュールが入っている。僕はその前を指しながら、空中にペン先で細長い円を描いた。天候に恵まれず、本腰を入れて撮影に入れなかった梅雨がようやく明けたのに、親睦会やらお盆休みやらで水を差すのも何となく気が引ける。

 ただ、最初からこういうスケジュールになることも織り込んでくれていた森田さんは、顔色一つ変えることなく、「5日の土曜日か、お盆休みですけど、その次の12日の土曜日でどうです?」と言ってくれた。

「次の週末となると、ちょっと急な気もしますけど」

「そうだね。その代わり、お盆となると、来れる人が限られちゃうか」

 僕の言葉尻を捉えて、森田さんは「それは、お盆じゃなくても同じですよ」と突っ込んだ。確かに、そりゃそうだ。

「じゃあ、第一、第二で候補にしておいて、調整しようか」

「それでいいんじゃないですか?」

 誰が来るのか、最終的に何人になるのかも、我々だけではどうせ分からない。他の候補日も加えて、後は全員に都合を聞いてみよう。家族連れも参加OKにしておいて、山の方のキャンプ場を借りるか、万博公園辺りのBBQ会場を予約するようにしよう。

 ザックリとしか決まっていなかった親睦会が、森田さんの提案によってどんどん方向性が定まっていく。半分休みのつもりでゆるゆる仕事をするつもりだったのに、何だか、やる気まで湧いてきた。

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