第7話 4月18日(火)
今月に入ってから、平日の日中はオフィスから人が減ってしまった。先月までは一緒にランチを取ることもあった哲朗も、仕事はすっかりリモートになってしまって、土日もあまり顔を見せてくれない。
森田さんも、年度末の繁忙期を乗り越えたら、来社の頻度が減ってしまった。結局、うちのオフィスで仕事をしているのは、基本的に僕と香織。時折、Youtubeへの動画をアップロードするのに、安定している回線の方がいいからと哲朗、浪川さんの二人がやってくる程度。
そんな二人が管理するYoutubeチャンネルの、非公開動画のURLがSlackに流れてくる。最近彼らや、取引先の小野寺さんらとやっている自主練ダンスの振り返りが主目的の動画だ。浪川さんがカット割りも考えて編集して、かっこいい動画に仕上げたっていいのに、彼女もしっかりダンスに参加して、彼女のなりの動きで元ダンス部の皆さんに食らいついていってるのがとても微笑ましい。
今回共有されたのは、先日の日曜日に行われた自主練の映像。ちょっぴり高めの画角は哲朗だろうか。鏡越しに親父の姿も見える。小野寺さんのもってきた音源に合わせ、彼女と彼女の友人とを筆頭に、浪川さんと陽菜がその後ろに立って動きをトレースしていく。
一輝くんと彼の連れ合い、沙綾さんは不参加らしい。見栄えのする動きは主に、前の二人。浪川さんは少々悪目立ちする感じで映っていて、陽菜のダンスは浪川さんほど悪くはない。体育の授業でダンスを選択していたんだっけか。それなりに、というかどうしても気になって追いかけてしまう。
「うわぁ〜。お父さんがそんな目で必死に見てるって知ったら、またややこしいことになりそうだな〜」
隣で僕のモニターを覗き込みながら、香織は嫌味な笑みを浮かべ、ふざけたトーンで言う。
「でも、コレいいね」
「お宅の里紗も参加するかい?」
「おじさんたちの邪な目で見られちゃ叶わないから、結構です〜」
中学校で水泳部に入ったらしい姪っ子の、地上でのバランスを整えるのにも良さそうだけど、ほぼ身内とはいえ、第三者に見られるのは確かに嫌がるかもしれない。そういう意味合いでは陽菜も似たようなもんだけど、久々に元気よく動く娘の姿が見れた喜びの方が僕の中では大きい気もする。
「コレが沙綾さんね〜。おー、すごいすごい」
香織は一つ前の動画を開いて、沙綾さん、小野寺さん、小野寺さんのお友達の三人だけで踊っていた冒頭の部分を、目を丸くしてジッと見ていた。単純にダンスの動きとしては三者とも大きな差はないように思えるが、中央の沙綾さんにどうしても目が行く、少し違って見えるのは表現力の差なのだろうか。単なる見た目、迫力だけの問題ではなさそうだ。
「沙綾さんも参加する回なら、里紗も行きたがるかもね。久々に陽菜ちゃんにも会える、とかはしゃぎそう」
そう言われると、陽菜があまり家族の行事に参加しなくなったせいで、彼女と里紗、啓が顔を合わせる機会も減っている。智希と啓は男同士で楽しそうにしているが、里紗はちょっぴり寂しそうにもしていたな。
SlackのDMで哲朗に、「沙綾さんが参加しそうな日って、分かる?」と打ってみた。彼女のファンらしい彼の妹にも、明子さんを通じて伝えてもらおうか。哲朗からの返事を待ちながら、既定の昼休みがもう間も無く終わることを思い出し、すっかり伸びきったカップ麺に箸をつけた。
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