キサラギの龍

紫舜邏 龍王

第1話 黒龍と黒梟

 B.A.B.E.L キサラギ化成の人体実験によって生まれた異能者達で構成される部隊だ。その能力は様々で、火を操る者、不死の再生力を持つ者、変身能力等々。隊員達の装備も様々で、皆自分達の好きな格好をしている。このお話はそんなB.A.B.E.Lに所属する一人の兵士、ナベリウスの物語。




 砂埃を巻き上げ、巨大な影がかなりのスピードで死の砂漠を横断していた。その光景は実に異様で、その場に何かしらの部隊が作戦行動をしていれば、必ず確認しに行くほどの出来事だった。しかし、それをする者はいない。その影は周りに目撃者がいない事を分かって派手に移動していたのだ。


「あーあ。本当だったら今頃、自室で酒飲んでたのに!何で我に頼むのだ!?」


 その影の正体は龍。キサラギ化成の部隊、B.A.B.E.Lに所属するナベリウスと呼ばれる兵士だ。彼は死の砂漠にて発見された廃墟の調査の為、事前の状況確認の任務を与えられていた。その中には生命体の有無、必要とあれば邪魔者の排除等も含まれている。そして今回彼が単独行動をしているのは、他の隊員が別の任務に当たっていたからである。本来ならば、今日は非番だったが、緊急という事で強制的に呼び出されたのだ。さらにこの任務がナベリウスに割り振られた理由も彼自身は気付いていた。


「今回発見されたという廃墟…おそらく″元”神殿……」


 組織外の者には知られてない事だが、ナベリウスは龍に変身する能力者だ。もちろんキサラギ化成の人体実験の賜物だが、この実験はナベリウスが所有していた御神体によって成功しているようなものだった。その為、そういった神殿絡みの任務、天使教団からの要請となると、ナベリウスに割り当てられる事が多かった。今回、詳細までは聞かされていないが、そんな事もあり、廃墟は神殿だろうと思っていた。


 ナベリウスは手足を使いながら蛇のように蛇行して移動している。彼が乗り物を使わないのは操縦知識がないからである。ただ単に龍形態の方が移動が早いというのもあるが…しかし、この姿もかなり目立つ為、人前で変身する事はない。仮に龍として活動する事はあっても、誰もいない所で予め変身するので外部の者から、B.A.B.E.Lには龍がいる…と噂されているだけだ。因みに、ナベリウスは龍形態の時でも空を自在に飛ぶ事は出来ない。空を飛ぶ為の翼がないのだ。しかし、高い所から滑空する事は可能だ。蛇にも滑空する種類の者はいる。見た目は龍だが、蛇に近いのだ。


 しばらく移動して、目的地まで近づいた時、前方に廃墟の密集地帯が見えて来た。目指している廃墟の座標からはかなり手前な為、別の廃墟だろう。神殿とは思えない広さだ。よく目を凝らしてみると、そこには所属不明の武装集団がいる。兵装を見るに、おそらく砂漠の部族だろう。彼等は味方以外は問答無用で襲い掛かるならず者集団と聞いた事がある。あの場所に用はない為、無駄な争いは避けるべきだろう。ナベリウスは龍形態から人型に戻る。そしてそのまま廃墟群に向かう。迂回するには遠回りになり、そのまま突っ切るのが早い。敵に見つからずに行動するのは割と得意な方だ。


 まず近くの廃墟の影に隠れて様子を伺う。といっても、ここらの廃墟達は壁や天井が崩れており、中に入る事は出来なさそうだ。そもそも、ちゃんとした建物の形を保っている物が少なく、足元には瓦礫が散乱している為、足場が悪い。

 

 音を出さないように歩いていると、割と近くで話し声が聞こえる。人型になってからここまで来るのに少々時間が掛かった。龍形態であんなに砂埃を巻き上げ移動していた。少なくとも数人はそれを目撃していただろう。確認に来ない訳はない。


「何もないな…見間違えたんじゃないか?」


「いやいや、そんな筈はない。見たのは俺だけじゃないんだぜ?」


「まぁ、リーダーが見たって言ってたしな…でも見た感じ異常は無い。さっさと戻るぞ。こんな所でぐずぐずしてる暇はねぇんだからよ!」


「遺跡だってか?そんなに重要なもんなのかねぇ…」


「俺達にとってはどうでも良いさ…だがリーダーが言うんだ。それに従うだけだ。」


 ふと、砂漠の部族が話している内容が耳に入ってきた。こいつらも目的の遺跡に向かうのか…?であればこれは無視出来ない相手だ。話の内容からして、そのリーダーと呼ばれる男とは別行動だろう。人数が少ないうちに片しておこう。


「ん、何だこの女?」


「止まれ!動くなよ…何しにここに来たが知らねぇが、ただの人間じゃないな…」


「君達の話が聞こえて来たのだが、その遺跡について話してもらおうかな。我も今遺跡調査に来ていてね。その遺跡と同じかなと思って、確認したいのだよ。」


「はぁ?てめぇに何を教えるってんだ!教える事は何もねぇ!武器もろくに持たねぇ奴が調査だと?笑わせるな!」


「なら良い。お前達のリーダーとやらに聞く。」


 そういうと、ナベリウスは隠し持っていた瓦礫をそいつの顔面に目掛けて高速で投げつける。その男は顔が潰れ、そのまま糸が切れたように倒れる。


「お前!大人しくしていれば、生かしたままにして連れて行こうとしたのに…!お前は今ここで殺す!」


 そうして、ナベリウスに発砲する。しかし、躱される。


「は?避けた!?」


「今から撃ちますって言っているようなものだろ。誰でも躱せる。」


「くそが!お前ら!一斉射撃!」


 すると、周りにいた男の仲間が銃弾をナベリウスに浴びせる。普通であれば、穴ぼこの蜂の巣になるところだが、そうはならなかった。


 ナベリウスはその場で回転したかと思うと炎に包まれる。銃弾はその炎によって威力を失い、着弾する頃になるとナベリウスの皮膚を貫通する事は出来ない程になっていた。


「まさかお前、B.A.B.E.Lの…!」


「さぁ、必死に戦わないと死ぬぞ!」


 そして、ナベリウスは火炎を放射する。





 その頃、廃墟群中央部では、この場所で活動していた砂漠の部族の一つ、小規模の部隊のリーダーが苛立ちを露わにしていた。


「いつまで時間をかけてるんだ?本当ならこんな所でもたもたしてる暇はねぇんだぞ。」


「何かあったのでは…?」


「何かあったらすぐ連絡よこすように言ってる筈だがな?」


 すると、部下を確認に行かせた方向から銃撃の音が聞こえた。


「ったく、てめぇら行くぞ!」


 リーダーは部下を引き連れ現場に向かう。


 その様子を上空から小型ドローンが見ていた。


「やれやれ、厄介事ですか…全く、やめてほしいものです。仕事を増やすのは。」


 廃墟の上にて、黒い装備の男がドローンからの情報を確認して愚痴を零す。彼も砂漠の部族を追い、戦場へと向かう。





 ナベリウスは思う。ここの部族はそんなに強くないと。おそらく結成されたばかりの集団か、すでにある組織の末端か…どちらにせよ、火炎放射だけで片付きそうだ。現に先程リーダーと思われる男も倒した。なんというか…張り合いがない。まぁ、これで邪魔者がいなくなれば問題はないのだが。


 そうして次々と敵を倒していく中で、ふと視界の端に小型のドローンが飛んでいるのが見えた。こいつらの物ではない筈だ。もしそうならすでにそのドローンで攻撃してこなければおかしい。では、一体誰の物か…このドローンには見覚えがある。しかし、思い出せない。


 ドローンはその場から離れ、どこかへと向かうようだった。今の戦闘を見ていたに違いない。ナベリウスは破壊する為、追いかける。


「奴らを全て倒してしまうなんて…しかもそのような服装でよく戦えますね。」


 追いかけた先にいたのは、全身黒装備の男だった。上空には先程の小型ドローンがホバリングしている。持ち主はこの男で間違いない。


「我にとって邪魔だったのでな。で、お前は?」


「僕は、面白い物がないか”散歩″しに来たのですよ。彼等に聞こうと思ってたのですが、見事に全滅させてくれましたね。」


「散歩しにここまで来る筈もないだろうに。お前も邪魔するなら蹴散らしていくぞ。」


「ふふふ。喧嘩を売られたら買うしかありませんね。B.A.B.E.Lの兵士さん。」


ドギャン!


「いっ………たぁ!」


「流石の異能力者でも僕の早撃ちには対応出来ないようですね。しかし、『痛い』だけでは済むとは…とんだバケモノですね。」


 その男は隠し持っていたシングルアクションアーミーと呼ばれるリボルバーによる早撃ちを仕掛ける。それが見事命中。その隙に男は距離を取り、廃墟の影に隠れる。


「ハルファス!」


 さらに小型ドローンを数台展開し、ナベリウスの周辺を埋めていく。その内の一台を突撃させる。ナベリウスはそれに気付き、向かってくるドローンには火炎放射を浴びせ、溶かす。被弾した傷は流血しているものの、浅いように見えた。


「ハルファス…思い出したぞ。君、確か御前試合に出てたな。名前は…Dinoseb。」


「名前まで覚えて頂けるとは光栄ですね。あの試合を見ていたのですか。ではこのハルファスの厄介さもご存知という訳ですか。」


「あの試合を見ている限りだと、全力でやる必要はないなと思うよ。そのドローンだって動かすのは君だろ?君を倒せば終わり。」


「そうは簡単にいきませんよ。僕の武器はハルファスだけではないのですから。」


「ならそれを早く見せておくれ。我にとってこれらは脅威にならん。」


 そういうと、ナベリウスはゆるりと歩き出す。ハルファスが攻撃を仕掛けていくが、全て炎によって阻まれる。Dinosebが隠れていたであろう場所まで行くと、そこには既に彼の姿はなかった。


「言いましたね?それならばお見せしましょうか。」


 その瞬間、ハルファスが一斉に動き出す。ナベリウスは変わらず、銃撃を炎で無力化し、ついでにハルファスを落とそうとするが、ドローンとは思えぬ動きでひょいひょい躱される。最初の一台しか墜落させる事が出来ずにいる為、苛立ちが溜まっていた。その足取りは段々と早くなっていく。ハルファスを焼き落とす為、追いかける。しかし、ナベリウスは気付いていなかった。Dinosebが罠を仕掛けている場所に誘き寄せらている事に。


「やっと見つけた。もう鬼ごっこは終わりかい?」


「えぇ。終わりにしましょう。僕は最初からここに誘き寄せるつもりでした。貴女は戦況を読まないのですね。」


 二人が対峙しているこの場所は廃墟群の中央。ちょっとした広いスペースになっている所だ。もともとここは何かの広場だったのだろう。ベンチの残骸のような物も見受けられる。


「今は単独行動中。これが他の者と組んでる時はそいつの言う事を聞くが今は我の好きに動けるのでね。何か悪い事でも?」


「いえ特に。しかし、今は試合でもなんでも無いんですよ?慎重に動かなければ、死。貴女はもっと戦況を読むべきです。さもなくば、あっという間にピンチになりますよ!」


 Dinosebの合図とともに廃墟の影から数十台の子機ハルファスが出てくる。ナベリウスは完全に囲まれてしまった。そのまま銃撃を浴びせられる。四方八方から放たれる集中砲火に、逃げる隙もなく、その場に留まるしかない。しかし、そのまま撃たれ続ける事はなく、先程砂漠の部族の集中砲火から身を守った時のように、体を回転させ放火により身を守る。子機ハルファスは銃撃を止める事はない。弾切れを起こした機体は交代し、全ての機体が同時に弾切れになる事を回避する事で、ずっと銃弾を浴びせ続けている。


 様々な手段を用いて敵を倒すDinosebだが、普段はこのような戦法はとらない。今回はハルファスを馬鹿にされた事に怒りを覚え、それならばハルファスだけで戦ってやろうという気持ちがあり、このような戦いになっている。


 普通ならば、ここまでの銃弾を受けると確実に死ぬ。しかし、ナベリウスの場合はまだ耐えている。彼女はB.A.B.E.Lの兵士。火を吐く能力者だろう。銃弾を火炎で防いでいるあたり、かなりの威力だ。ハルファスを近づけさせると、その炎によって焼かれかねない。一定の距離を保ちつつ、銃撃はやめない。


 そうすると、ついに炎は消えてしまった。しかし、まだ銃撃は続ける。煙が晴れると、中から蹲って動かないナベリウスの姿があった。全身血だらけだ。彼女の様子を初めて確認し、銃撃を止める。


「確かに、貴女の火炎は凄いです。しかし、その能力に過信しすぎですね。今まではこのような状態に陥らなかったのですか?それに貴女のその格好…戦場に来る装備ではありませんよ。少しは期待していたのですが、残念です。」


 Dinosebはその場から去ろうとする。本来の目的を遂行する為、もはや彼女に用はない。


「ふふふ、久しぶりだな。ここまでの怪我をしたのは…。勘違いしているようだが…我の能力は火を吐くだけではない。」


 思わず足を止め、ナベリウスを凝視する。普通では立っていられない程の大怪我だ。B.A.B.E.Lの兵士は皆こうなのか?恐ろしい耐久性を持つ肉体だ。


「全く、恐ろしい身体ですね。想像以上のバケモノのようだ。」


 しかし、相手は重症。次の集中砲火で確実に仕留める。


「我が戦況を読まないのは…読む必要がないからだ。どんなにピンチになろうとも、それをひっくり返す力を我は持っている。お前は我の和服を戦場では不向きと言ったな…我にはこれで充分。ゴテゴテとしたアーマーは逆に邪魔なのだ。何故なら…」


 地に伏していたナベリウスは頭を上げ、Dinosebをキッと睨む。その瞳は紫に輝いていた。


 何かまずい。そう思った時には遅かった。子機ハルファスに攻撃命令を出すが、放たれる銃弾はその皮膚を貫通する事はなく、傷をつける事も出来ぬまま弾かれる。さらにその肉体はみるみると巨大化していき、肌は黒い鱗に覆われていく。頭からは角が生え、体が長く伸びていく。


 Dinosebは巻き込まれないように距離を取り、子機ハルファスも一旦引かせる。


 やがて、Dinosebの前には巨大な龍がこちらを見下ろしていた。


「敵の目の前で変身する姿を見せたのはこれが初めてだ。」


「まさか…貴女の能力って……。」


 目の前の光景に流石のDinosebも動揺を隠せない。人一人相手していたと思ったら、いきなり巨大な龍が現れたのだ。


 そういえば、B.A.B.E.Lには龍がいるという噂を聞いた事がありましたが…まさか本当だったとは… てっきり、火を吐く能力だと。いえ、考えを改めなくてはいけませんね。これは、なかなか無いチャンス。巨大な相手にどう戦うか。血が激ってくる。


「相手にとって不足なしです。」


 そう言うと、子機ハルファスを再び配置させ、一斉射撃を指示する。


「この姿になった今、銃弾は効かぬものと思え!」


 その言葉通り、弾は硬い鱗に弾かれ効かない。Dinosebはそれを確認してすぐに動き出す。瓦礫の中で見つけておいたワイヤーを手に取り、走り出す。ナベリウスはそれを踏み潰そうと、左手を上げる。それを逃さず、ワイヤーを投げ、自身を踏み潰そうと迫ってくる左手に巻き付ける。そのままワイヤーを引っ張り、ナベリウスの体勢を崩そうとする。しかし、この巨大。生身の人間ではびくともしない為、Dinosebはその瞬間にバイオ・エレクトロスイッチを入れる。この装置は運動の際に脳から発せられる神経伝達の電気信号を強化させる。これにより身体能力、反応速度を飛躍的に上昇させるのだ。入れるのは3thギア。常人であれば、動く事さえ出来なくなる程の苦痛だが、彼は鈍感覚により、無理矢理軽減させている。体勢を崩すのに最大の力を使う為、普段は出さない雄叫びを上げる。周りからはクールに見られているが、実は戦闘狂。今まで戦った事のない相手、しかも巨大な龍と戦っている事にワクワクしている。


 ナベリウスは左手を引っ張られ、想定していなかった事に少し驚き、思わずそのまま体勢を崩してしまう。しかし、彼にとってそんな事は膝カックンをされた事と変わりない事で、体勢を崩されたからといって問題はない。また、体勢を直せば良いだけの事。そう思っていると、Dinosebの手にはいつの間にか、武器が握られていた。それは黒色の短刀。体勢を崩したナベリウスの喉元を目掛けて攻撃を仕掛ける。


「夜梟の焉!」


 Dinosebの短刀から放たれるその斬撃は梟の鳴き声のような風切り音を響かせ、一直線に飛んでいく。ナベリウスは体勢を崩されたのにも関わらず、巨大とは思えぬスピードでその攻撃を躱す。


「″上”に何かいるな…」


 体勢を整えるナベリウス。その時、首の側面の鱗がボロボロと落ちる。


「ちっ。避けきれなかったか…」


 その傷は肉までは到達しなかったが、その硬い鱗を剥がす事は出来た。


「やはり、アモンでの攻撃は効くようですね…貴女の鱗を剥がせば攻撃が通るでしょう。いつまでその余裕が保てますかね。」


「それがどうした。お前は上空に何か待機させているだろう。おそらくそいつで何かしたな。今落としてやる。」


 ナベリウスは口を開け、火球を作り発射する。その火球はまっすぐ上空の″何か″に向かっていった。しかし、Dinosebは焦る事はなく冷静に対処する。ナベリウスが言う、上空の何か。その正体はDinosebのハルファスの親機。まず、そのハルファスを非難させる。火球のスピードはかなり出ていたが、避けられない事はない。


「やはり避けたか…」


 そして、近くに落ちていた瓦礫をナベリウスの喉元目掛けて有りったけの力を込めて投げつける。バイオ・エレクトロスイッチにより、かなりの破壊力がある瓦礫の弾丸はナベリウスに向かって一直線で飛んでいく。が、被弾する直前でまたもや躱されてしまう。


「上空にいるのはハルファスです。ですが、ステルスによってカモフラージュしています。何故感知出来るのでしょうか?」


「我の髭は敏感でね。空気やエネルギーの流れを探知出来る。上空にある物も何かあるな、くらいにしか分からん。」


「まさか答えてくれるとは思いませんでしたが、なるほど。つまり、その髭を切り落とせば良いわけですね。」


「それを君が知ったところで我に影響は無い。」


 二人同時に動く。Dinosebは子機ハルファスを展開しつつ、ナベリウスに向かって走り出す。身体能力が上昇している今では物凄いスピードだ。一方でナベリウスは首をS字に曲げ、力を溜める。子機ハルファスからの射撃を受けるが、びくともしない。ただDinosebに狙いをつけるばかりだ。そして、二人の距離が近づいた時、ナベリウスは貯めていた力を一気に解放する。Dinoseb目掛けて頭突きを繰り出した。S字に曲げていた首を瞬時に伸ばす為、かなりのリーチがあり、さらにその破壊力も凄まじい。地面が抉られる程だ。


「ッ!斬払!」


Dinosebはそのナベリウスによる頭突きを跳び上がって躱し、そのまま身体を回転させ攻撃に転じる。それは見事ナベリウスの首の上部にあたり、その部分の鱗がボロっと剥がれた。


 しかし、一度跳び上がってしまうと着地するまで自分で移動する事が出来ない。着地点ではナベリウスが口を開き、火球を撃ち出そうとしている。このままいけば、至近距離で食らってしまう。


「ハルファス!」


 Dinosebは子機ハルファスを近くに呼び寄せて、その機体を蹴る事により着地点を変える。それにより至近距離からの直撃は免れるが、火球が発射させる事に変わりはない。


 ナベリウスはDinosebが方向転換した行先に火球を放つ。


「ハルファス!」


 Dinosebは再びハルファスを利用し、方向転換をする。そのタイミングで火球が飛んできてハルファスに直撃、そのまま墜落する。火球から逃れたDinosebは地面に無事着地する。


「ふん、ことごとく躱すな。だが、君にこの状況をく…痛ッ!!」


 首の辺りにちょっとした痛みを感じる。そこまで激痛ではなかったが、思わず声が出る。周りを確認すると、子機ハルファスが射撃したようだった。鱗が剥がれ、肉が露出していたところに当てたのだろう。しかし、これが致命傷になる事はない。ナベリウスは射撃したハルファス三台を次々と噛み砕いていく。Dinosebはその瞬間を見逃さなかった。隠し持っていたワイヤーを投げ、ナベリウスの下顎の歯に引っ掛ける。そしてバイオ・エレクトロスイッチを最大の5thに上げる。この状態になると、身体能力が5倍以上に強化され、異常強化された生体電気が体内にも放出される。もちろんこれには大きな代償があり、長時間使用すると、死ぬ。まさに諸刃の剣。これを使う時は一撃で仕留める時。そう、Dinosebはこの攻撃で終わらせる気だ。


 ナベリウスと戦って分かった事がある。一つは龍になると、銃弾が効かなくなる事。もう一つ、彼女は飛べないという事。これはハルファスを火球で落とそうとした時に分かった。飛べるのであれば、上空で攻撃した方が確実だ。避けた後も追撃すれば良かった。それをしなかったという事は、飛べないと言っている事と同じだ。そして、彼女の弱点。それは喉元だ。彼女は攻撃は避けたり、防御する事はない。それはその身体を硬い鱗で覆われているからだ。しかし一点だけ、頑なに回避する場所がある。それが彼女の弱点。そこを最大火力で叩く!


 ワイヤーを引き、一気にナベリウスの喉元に近づく。すると、他とは異様に違う逆さに付いた鱗が見えた。


「しまった…!」


 ナベリウスは首を曲げ、回避行動を取ろうとするが、ワイヤーによって繋がっている為、逃れられない。


 そしてDinosebは近づいた時の勢いも利用し、逆鱗を蹴り上げる。ナベリウスはその衝撃と共に、体に電撃が走った。それは比喩表現ではなく、実際に蹴り上げた時に電撃を放ったのだ。バイオ・エレクトロスイッチの5thギアは強化された電気信号を体外へと電撃として放つ事が出来る。


 5thによって強化された蹴りと5thで生み出された電撃による、超破壊的な攻撃。これぞ、必ず殺す技。まさに必殺技。これを受けて立つ者はいない。


 蹴りの勢いでくるっと身体を一回転させ着地するDinoseb。エレクトロ・バイオスイッチを切り、立ち上がる。身体はボロボロだが、すぐにナベリウスの様子を見る。見たところ、逆鱗に変化はない。他の鱗とは違い、剥がれ落ちる事はないようだった。そのうち、ナベリウスはプルプルと震えだし、やがて咆哮を上げる。その風圧で、身体が吹き飛ばされそうになるが、必死に耐える。ハルファスに至ってはどんどんその場から遠ざかっていってしまう。


 ナベリウスは吠え終わると、トグロを巻くように、身体を丸め、そのまま、高速回転する。それは宛ら駒回しの駒のようだ。しかしその威力は凄まじいもので、周りの廃墟を全て破壊する勢いだ。その時に発生する風圧も先程の咆哮の比ではない。もちろん、Dinosebも巻き込まれ、飛ばされる。ナベリウスの攻撃を直で受けなかったものの、ただで済む筈もなく、飛んでくる瓦礫にぶつかりつづける為、かなりのダメージだ。


 周りの廃墟が瓦礫の残骸と化す頃、ようやく止まる。


「うわーん!いっつもそうだ!なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!本当は部屋でゆっくりしてた筈なのに!こんな所まで来てさー!もう、知らねーよ。あとはてめぇらでなんとかしろ!次会った時は手加減無しだからな、このドローン野郎!」


 ナベリウスは大泣きしながらどこかへと去って行く。



 その廃墟群から少し離れた場所にDinosebは飛ばされていた。


「おいおい、なんだったんだ?あの情緒不安定な龍は…。」


「何でも良いが、とんでもないバケモノと会ってしまったようだ…身体が痛い…」


「いやいや、あんなバケモノにあって″身体が痛い″で済むご主人も大概だぜ?」


「はぁ、あれだけ破壊されたら、例の物も残ってないかな…」


「一応、探してはみるか…」


「そういえば、名前、聞いてなかったな…。」


 大の字で仰向けになっているDinosebの手には、黒い鱗が握られていた。



 


 

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