古城

 ベリーヌは子竜にラッテと名付け、その示した街へと訪れていた。

 

 途中、ラッテの存在を気にする人々の姿が見られたが、ベリーヌが事情を話すと

快く見送ってくれたのである。


 ラッテの飛ぶ方向を追って、ベリーヌが歩いている。

 そして辿り着いたのは、街から逸れた静かな森の中。


 さすがに不安を覚えたベリーヌは、ラッテに声をかける。

「ねぇ、ラッテ……道を分かって進んでいるよね……?」


 しかし、そんなベリーヌを気にせずにラッテは森の奥へと進んでいく。

 そしてベリーヌもラッテを信じ、それを追いかけた。

 

 やがて森を抜けたベリーヌの視界に映ったのは、高く聳える古城だった。

「お城なんてあったんだ、こんな森の奥に……」

 

 そう呟きながら、古城に近づくベリーヌ。

 すると突然、古城の周囲に熱風が吹き荒れた。


「わっ!?」

 驚いたベリーヌはとっさに顔を伏せた。

 

 ベリーヌが顔を上げると、古城の周りを無数の竜が飛び回っていた。

 そして、ベリーヌの存在に気が付いた数匹の竜が、その鋭い視線を向けている。

 

 そんな光景に驚愕するベリーヌの目の前に、一匹の大きな竜が舞い降りた。

 吸い込まれそうな漆黒の姿から伝わる威圧感に、ベリーヌはこの黒竜が長で

あることをすぐに理解した。


 黒竜の姿に目を奪われていたベリーヌの頭の中に、ある声が響き渡る。

「その竜を追って来たか」


「この声は、貴方が?」

 そう言ってベリーヌが黒竜を見つめると、黒竜は答えるように鋭い視線を

ベリーヌへ向けた。

 そして、事情が呑み込めず困惑するベリーヌに対し、再び声をかける。


「貴様の身に流れる微かな竜の血が、その竜を招いたのだ」

「竜の血って……どういうことです!? 私の元の両親は人間で……」

 

 言いかけたその時、ベリーヌはある事を思い出した。

 過去に家族を失い、重症を負った自分を育てた存在がいたことを。

「まさか……ウィリィさん……!?」


 取り乱すベリーヌに対し、黒竜は語るように答える。

「ウィルリエルは大変なことをしてくれた、瀕死の人間に血を分け与え

助けた挙句、やつしてまで目掛けるなど……」

「……人間の姿が竜の力に耐えられる訳がなかろうが」


 聞いたベリーヌは、虚ろな表情でその場に頽れた。

「なら……ウィリィさんは……私のせいで……」


 ……。 

 ある日、人里離れた民家に1匹の大きな獣が襲い掛かった。

 崩壊した民家の前には全身から血を流し、仰向けで倒れこむ少女の姿があった。


 獣が少女をめがけて飛び掛かろうとしたその時、上空から赤い光が差し込んだ。

 その光が獣の全身を包み込むと、獣はたちまち黒い塊と化した。


 そして少女の前に1匹の白い竜が舞い降りると、竜は少女の顔を覗き込んだ。


 ……。

 ベリーヌが目を覚ますと、そこには心配そうに顔を覗き込むラッテの姿があった。

 あの白い竜の姿と重なるラッテを見て、ベリーヌは理解した。


「ラッテ……貴方は、ウィリィさんの……」

 

「理解したのなら、その子竜と共にここから去れ」

 意識を取り戻したベリーヌを見て、黒竜は冷静に伝える。


「分かりました、帰ります」

 ベリーヌは立ち上がると、黒竜を見据えて話を続けた。


「……ですが、ラッテはここへ返します」

「異端者の子など同胞に迎えるつもりはない」

 お互いを真剣な表情で見つめ合うベリーヌと黒竜。

 先に口を開いたのはベリーヌだった。


「それなら、どうすれば認めてもらえますか?」

 その言葉に対し、黒竜は静かに答える。

 

「5年間、ウィルリエルに代わり貴様がその竜を育てよ 」

「それでもなお、その気があるというのなら考えてやる」

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