子竜
ある街の菓子工房で働く女性、ベリーヌは街の資料館を
訪れていた。
ベリーヌを出迎えたのは資料館で働く青年、リブリックだった。
「こんな早い時間に来るなんて珍しいね」
「実は、調べたいことがあって……」
ベリーヌがそう言った時、リブリックはベリーヌの隣にいる小さな生物に
気が付いた。
その生物は、刃物を思わせる鋭い爪と牙を持ち、金属の様な硬質の鱗に
覆われた姿が、小さくとも恐ろしく且つ神秘的なオーラを放っていた。
「まさか、調べたいことって……」
「そう、この子について調べたいの」
……。
資料館に招かれたベリーヌは椅子に座っていた。
その一方で生物は、静かにベリーヌの頭上を飛び回っている。
少し経って、資料館の奥にいたリブリックが一冊の本を抱えて戻ってきた。
そして、持っていた本を開くと、ベリーヌの見える位置に置く。
開かれた頁には、ベリーヌ達の頭上にいる生物と同じ姿の
生物の絵が記載されていた。
「間違いない、その子は
「えっ?
聞き慣れない名前に目を丸くするベリーヌに対し、リブリックは
続けて説明する。
「この世界における最強の生物で、一説では神の化身とまで言われているよ」
「えっ!? 最強!? 神の化身!? 何でそんなとんでもない子が工房の
外にいたの!?」
リブリックの説明に取り乱すベリーヌ。
それを見たリブリックはベリーヌへ冷静に問いかける。
「何か心当たりは?」
「いや、それが全く……あ!」
「もしかして、お菓子の香りにつられてやって来たとか?」
「それは……どうなんだろう……?」
その答えを聞いたリブリックは、ベリーヌの向かい側に座ると真剣な表情で
言葉を続ける。
「それなら、その子を今すぐに返した方がいい」
「幼体の竜がここにいるなんて普通の事態じゃない、もし万が一のことが
あった場合……」
「……少なくとも、この街なら簡単に滅ぼせるだろうね」
リブリックの言葉に戸惑いつつも、ベリーヌは言葉を返す。
「で、でも返すって、どうすればいいの!?」
ベリーヌが声を上げた瞬間、2人の頭上を飛び回っていた子竜が壁側へと
飛んでいった。
2人が視線を向けると、子竜は壁の何かをじっと見つめている。
「どうしたの?」
駆け寄ったベリーヌが子竜の視線の先を確認すると、この地方の
地図が掲示されていた。
そして子竜は、ベリーヌに何かを伝えるように、その鋭い爪で地図を
器用に突き始める。
子竜の爪の先、そこにはある街を示されていた。
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