2021年07月07日【エラー】今日のお題の/記録がないので/代打の衣食銃追加エピソード


―― お知らせ ――

この日はなぜだか、

三題噺のお題が記録されてなかった。

なので今回は私の旧作『衣食銃』の、

追加エピソードをお出しします。

リクエストがあったのと、

手元に書きかけの没エピソードがあったので。


没にした理由:本筋への影響がなかった。

裏話:時系列は四話の後で五話の前。

初めはこの直後にスクシと出会うつもりだったが、

前半と後半がまったく関係なかったのでやめた。


―― お知らせここまで ――


 テロリストが活動する地域において、狙う意味がある場所は安心からは程遠い。都市を避ける暮らしは、おおよそ快適とはかけ離れているが、危険よりはいい。ましを維持するだけでも、必要な工面がいくらでもある。


 まずは食べ物。携帯食を残すために、食べられるものは虫でも草でも拾って食べる。ケイジはもちろん抵抗があったが、手元にある食べ物がどんどん減る様子は意を決するに十分だった。


 火を通すときには、歩きながらではガスライターで直接、休憩しながらでは炭を使う。どちらもそこそこ大きい街でしか補充できないが、水よりは長持ちする。


 ササキの餌はいつも通り、歩きながら拾って食べている。ジャッカルは雑食で、大きな問題は起こっていない。時々与えるご馳走は水と同じで一定の消費量を維持している。


 二人と一匹の歩みは、苦難を順調に乗り越えていった。人間から離れて世界から孤立した気分になっても、目の前にはもう一人がいる。特に楽しみなのはレタが渡り歩いたあちこちの話だ。ケイジよりも広い世界を知っていて、言葉巧みに伝えてくれる。歩きながら話し続けてなお尽きる気配がない話は、それ故に切り上げどきを探している。間近な危険以外は、ケイジに見つけさせている。


「池、いや、湖?」


 石と少しの草で覆われた区域の先に水が横たわっていて、正面に歩いては越えられない。周囲を回り込めそうではあるが、遠くには川のせせらぎと飛沫が見えた。


「死水域ね。川の側面のコブに水が貯まる地形」

「魚もいる?」

「見てみましょう」


 レタは念のため、地図で上流を調べた。山中なので予想通り工場はなく、排水による汚染もない。投棄物からの汚染は可能性が残るが、これ以上は捕まえてからだ。


「レタ。結構たくさんいるよ。釣り道具を作れないかな」


 ケイジの提案を受けて、近くの枝で深さを確認する。レタの靴は脛の半分まで守るタクティカルブーツで、防水仕様は十分と確認してある。少しだけならば川に入れるとはいえ、万が一にでも足場が崩れたら命に関わるので、深さと同時に硬さやぬめりも確認しておく。


 手持ちの道具でなら、簡易的な網を作れる。餌で魚を集めて浅い側へ追い込む。二人分なら三尾も獲れたら十分そうだ。あとは餌の確保だが、レタは今なら使える手を試したくなった。


「ケジ、射精して」

「え! それはどういう意味でしょうか」

「ご存知ない? 男性器を刺激して精子を出すこと。小さな何かが泳いでるのを見て、魚が餌だと思って寄ってくるのよ」


 レタが家を失った後で、運び屋ギルドに参加する前、ただ日々を生き抜くだけで精一杯の頃に、似た境遇の男から教わった。その後の女ひとりで活動する期間には使う機会がなかったが、今は久しぶりの使う機会だ。


「もし必要ならどこでも使っていいよ。ただし、耳と眼窩以外ね」

「その言葉の意味が、まだわかりませんが」

「念のため。大変なことになるからね」


 結局、レタが後ろを向くことになった。火起こしの準備もあるので分担だ。拾ってきた枝で空気の通り道を作り、その祭壇に手持ちの炭と着火剤を恭しく乗せる。必要な時間に対して多すぎる分は砕いて、余りを消臭や歯磨きで使う分とする。アルカリ性の炭は酸性の臭いに効く。


 まだ時間がある。ペグとタオルを使って簡易的な網を作った。三角形の小部屋に魚を閉じ込めて、浅瀬のちょうどいい場所で掬いあげるられる。強度の確認をしているところに、背後からケイジの声が聞こえた。


「お疲れ様」


 レタは冷淡に、肉体労働の一部として扱う。大きな葉の上に乗せた粘性の白を、レタが指示する場所に落とす。近くを泳いでいた魚が入り込んだ存在に気づき、食欲を剥き出しにして集まった。真上からレタが三角形の小部屋を落とすと、壁となるタオルに体当たりをして、柱となるペグを揺らず。徐々に浅瀬へ運ばれ、最後には別のタオルで包まれ水の外へ出た。


 人がいない山間、誰も入る理由がない山奥。味はお世辞にも褒めがたいが、安心できる環境が最大の調味料になっている。余った火で川の水を蒸留し、飲み水に加えた。言い換えるなら、街を離れたままでの寿命が一日ほど伸びた。




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