2021年06月30日【ギャグコメ】楽園/フクロウ/最悪の時の流れ (1102字を/36分で)
春先の話。アルファは故郷の村から遠く離れた島に来ている。周囲ではお祭り騒ぎが続き、外部からの客人も多い。楽園と呼ばれる島はいつでも豊作で、人々は余暇で楽しむ娯楽を発展させてきた。
群衆の歓声を横目に、アルファは仕事に向かう。相棒とするフクロウと共に、海岸線を一望できる高地を陣取り、人々の流れを眺めている。五日目になり、無意識まで馴染んできた。怪しい者をすでに三人まで絞っている。要求した資料と合わせて、個別に当たる順番を決めた。
アルファへの依頼は、裏切り者の発見だ。肥沃な楽園を台無しにしようと画策する兆候が見つかり、内部の者では調べさせても異常なしと返ってくる。技術不足ならばそれでいいのだが、もし調べられない事情があったならば事だ。そこで外部の、利害関係を持たないアルファに白羽の矢が立った。評判も技術も伝わっている。
市長からの連絡を使い、呼び出した二人目がまでを別の部屋に待機させて、いよいよ三人目を追い詰める。全員が多かれ少なかれ共謀していると見て、聞き出した情報が矛盾するように、その矛盾を突いて動揺したら誤魔化すための新たな嘘を重ねさせるように。繰り返すうちに言葉はやがて制御不能になり、そこがアルファの狩りどきだ。
こうなればアルファを出し抜くしか逃れる手はない。狩られる側にとっては最悪の時だが、それまでの悪事を含めると、当然に想定している状況だ。物事には流れがある。
三人目はコメを右手に持ち、アルファの口に押し込もうと突き出す。非常食のおにぎりだが、強引に押し込んで使えば口を塞ぐ道具にもなる。貧者は貴重な食事を逃せず、富者は食べ物を粗末にする行為に忌避感を持つ。口を塞ぎ、舌の動きを阻害し、時には嘔吐中枢を刺激する道具だ。詰まらせれば窒息死する。
アルファは膝の力を抜いて姿勢を一気に下げた。同時に手首を掴み、斜めに引いてバランスを崩させる。いくら策謀を練ろうと、所詮は田舎者だ。あっさり隙を見せたところに、アルファのフクロウが飛来し、頭を掴む。どんな動きをしようにも、頭の位置のバランスが崩れれば、転倒を防いで中断するしかない。契約通り、犯人の捕縛に成功した。
アルファは報酬とは別に、お土産のおにぎりを貰って帰路についた。ちょうどいい勢いで食べるなら美味だけを堪能できる。楽園と名高い島のうち、アルファが味わったのはおにぎりだけにした。アルファには帰るべき家があり、出かけるべき依頼人がいる。楽園の環境に慣れてはいけないし、思い出してもいけない。それらは仕事の邪魔になる。
最後の思い出を、船酔いでの嘔吐にした。仕事に律儀な逸話がまたひとつ、同行した船頭から広まっていく。
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