傑作選シリーズ3:女とフクロウ

2021年06月21日【指定なし】砂漠/フクロウ/無敵の主従関係 (920字を/40分で)




 秋だけは田舎町も喧騒に包まれる。都会の商人たちが作物を求めて集まり、かわりに各地の工匠が仕立てた道具を置いていく。農具の出来は作物の収穫量に繋がるし、毛皮や寝台は動かすための体力になる。穫れる作物は年ごとに増えて、それに伴い、集まる商人も増える。


 そのついでに、アルファに依頼を持ち込む客も訪れる。田舎町の自警団として活躍する傍らで、依頼を受けては、各地の難事件に手を貸している。革の鎧を着込み、相棒のフクロウを携えて、これまで解決してきた実績は八年で一二件になる。どれもが地元の総動員で解決しなかった内容を一人と一羽で解決したのだから、街人の噂も合わせて多額の報酬が当たり前になっている。


 今年は三人の市長が集まった。従者たちは決まって、普段の偉そうな態度とは一変した様子を見る。新人は特にだ。アルファが現れる場所と時刻は決まっている。稽古から戻り、食事を済ませる正午すぎだ。森林側から歩く、肩にフクロウを乗せた人影を見て、従者は右手に依頼内容をまとめた羊皮紙を、左手に依頼料で膨らんだ袋を準備する。


 アルファは順に、目を通しながら市長からの話を聞く。一人目は場所を見ただけで断った。砂漠には隠れ場所がないので、探し物ならば現地の者だけで済むし、手に負えないならあばアルファでも同じだ。時間をかけてこの場まで出向いた市長は憤るが、アルファは冷たいアルトで諫める。


「自らの力量と適性を把握しているからこそだ。もしお前の依頼を受けたなら、やがてお前は各地から糾弾される。金を払って、成果もなく、地位さえ失う。そうなりたくは、まさかないだろう。私を求める者はいくらでもいる」


 次の者の依頼を確認するアルファに対し、市長は黙ったままで背を向けた。ここで食い下がっても解決しない。別の手を探さなければならない。それ以上に、アルファがすぐ引き受ける様子を聞きたくなかった。


「盗賊団か。いいだろう。ただし、冬だ。秋はここも狙われる側なのでな」

「間者探しか。高くつくぞ。しかも春までお前のところに残るつもりかどうかもわからん。まあ、いい場所だから、冬の拠点ついでにもできるかもな」


 計画を決めて、訪れた市長たちも満足顔だ。アルファの一年はこうして始まる。


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