2021年06月05日【指定なし】おもちゃ/屍/鑑賞用の幼女(956字を/42分で)
地下室の重い扉の先に昼夜はない。頼りない蝋燭を携えて、コツンコツンと足音を響かせる。等間隔に、ゆっくりと。領主が来たと奥にいる人間に知らせる。
領主のアルファには加虐趣味があり、指先の動きに合わせて叫び声をあげる瞬間を何よりも愉しんでいる。領民から定期的に生贄を差し出させているが、手厚い支援を各地に行き渡らせていて、民からの支持は厚い。領地には多数の集落があり、そのひとつずつから差し出す生贄は二年に一度となる。
地下室は深くて広いが、部屋の数はごく少ない。おもちゃにできるのは同時に一人までだ。今月のまだ幼い女は、不運により身寄りがなくなったために生贄として差し出された。楽しめるよう、地下室に入れる前に二ヶ月ほど豪華な部屋と食事が与えられている。貧しい暮らしを過去にするまで回復したので、領主は長く楽しめる。
今日は切り傷が瘡蓋になってきたので、猫鞭を手にした。麻紐を束ねた形で、塩水をたっぷり染み込ませている。腕に力を込めてブラボーに叩きつけた。液体が飛び散る小気味いい音と、続いてブラボーの叫び声が響く。連日の消耗を重ねていても、広い部屋に反響する大声が出ている。痩せ細っていたブラボーがここまで健康体になり、その体を使って愉しむ。領主の至福のひとときだ。
何度か叩く度に、血液を洗い落としながら塩水を吸わせる。引き上げた直後に滴り落ちる水滴を勿体無いのでブラボーの肩甲骨に垂らす。ブラボーは叫ぶ。痛みを和らげるため、本能的に叫んで興奮状態を作る。すでに領主が気を変えるとは思っていない。叫ぶ内容は意味を持たない。ただ叫びたいから叫ぶ。
領主はこの者の外見を気に入っていた。やがて屍になった後もしばらくは残して、眺めて楽しもうと決めた。普段の生贄は最期に地下水路に繋がる池に落とす。濡れた体では傾斜で滑ってしまい、奥へ泳いで出るには狭い格子に阻まれる。這い出ようともがく姿を眺めるのが定番だ。飼っている肉食魚が齧り付き、やがて全身を食べ尽くした後、余った骨はそのまま地下水路を流れていく。
今回は内臓だけを餌とし、余った体に服を着せて、池の上に飾るつもりでいる。聞き齧りの剥製を作る方法でどこまで整った外見を維持できるか、これも密かな愉しみのひとつだ。もし失敗した場合など、腐ったらすぐに捨てられる。
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