2021年06月04日 【BL(レア)】過去/レモン/新しい殺戮(1734字を/59分で)


 バナナの楽園バナナランドでは、テレビ特集を見てからレモンの人気が高まっている。中でも森に住む霊長目は、高い知性と器用な指を使い、レモンを絞ったり、輪切りにして飾ったりと変幻自在のアクションを披露する。程よい焼き加減の肉にレモンを合わせるのがもうたまらない。普段は敵対しているハチさんもこのお肉のお味に関しては仲間となった。


 一方で、これまでの仲に亀裂が入った相手もいる。川に住むカジキにとって、焼いた肉は地獄の熱量を纏った悪の食べ物だ。霊長目の体温でも熱すぎるのに、さらに熱を加えて食べるなど、正気の沙汰ではない。こちらも敵対していた齧歯目と意見が一致した。屍肉食にとって熱した肉は不愉快な味だ。


 浮かれる霊長目の中でも、長を中心にする年配者はレモンへの懸念を抱いていた。かつて海からやってきた外来種のワニによって島が侵略されかけた。露骨な敵対を見せたのでどうにか現地の生き物が駆逐したが、今回は違う。外来レモンが友人らしい顔をして忍び寄っている。最初にテレビを使って情報の断片のみを与えて、食文化の顔をして浸透する。抵抗を封じるため、長い長い時間をかけて深くまで潜り込む。やがて後戻りが簡単ではなくなった頃に本格的な殺戮タイムを始める。島民に共存派が現れれば、自律行動する使い捨ての妨害機として使いものになる。最期には切り捨てられると考えもせずに、根拠なく自分たちは生き残れると思い込んで、レモンのために無償で協力してくれる。


 老体は寿命で死に、新しいと思っていた者も寿命で死に、生まれた時からレモンと共にいた新世代も寿命で死に始めた頃、ついに外来レモンの侵略が本性を表した。初めは些細な毒で、一時的な酩酊状態にさせる。嗜好品としての地位を確立したら、やがて他の苦痛から逃れるため、レモンなしの暮らしを考えられなくする。


 次に爆発レモンが現れた。収穫し、大地域の流通担当者の手に渡り、中地域の流通担当者の手に渡り、個々の販売所への流通担当者の手に渡る。最後に末端消費の手に渡ったころ、全体の少数が爆発した。多くは些細な怪我で済んだが、生命力が低い少数派は死体に変化した。


 ここで民は初めて議論を始める。レモンを絶滅させるか、共存するか。共存派は絶滅派に対して、「少数のために多数を犠牲にする不届きもの」とレッテル貼りをした。絶滅派に属すると悪口を言われる側になると印象付けた。中には「爆発したけど、大した規模じゃない。かすり傷程度だった」と情報を流す者も現れた。群衆が抱える油断が増えてレモンは活動しやすくなる。


 どの結果になろうと、疲弊させる部分に意味がある。レモンの侵略は次の段階に移った。潜伏していた備蓄レモンが一斉に爆発したのだ。こうなっては同じ場所に備蓄していた食糧もすべて食べられない。飢饉が訪れる。死体に変化する元生命体が増えれば、やがて菌によって分解され、虫が食べて遠くへ飛び立ち、小動物が食べて集積し、中型の動物が食べてさらに集積し、大型の動物が食べる。


 エネルギーが移動していく連鎖のうち、全ての段階で副次的にレモンの餌も少しずつ供給される。ここで得た栄養を貯蓄し、連鎖から切り離す。巡っているエネルギーが減ったら省エネ活動が得意な個体ほど生き残りやすくなるが、抜本的な解決にはならない。相変わらずレモンで堰き止められる分を除いていき、少しずつ減っていくエネルギーで小さな循環を続けている。


 少ないエネルギーでは大きな活動はできない。抵抗の芽を摘み尽くしたら外来レモンによる殺戮タイムだ。手始めに捕まえた個体を見せしめとして惨たらしい殺し方をした。楽に死にたい者向けの処刑台を用意して、自由に使えるよう公開する。小さな望みに賭ける決起を企てた時点で発見し、次の惨たらしい見世物にした。


 繰り返す期間が長くなるほど、レモンへの反撃を志す者は減っていく。最後に縋り付く縁を埋め立てて、新しいテーマパークに変えていく。


 全ての過去を塗りつぶし、抵抗勢力がついに根絶やしになる。バナナの楽園バナナランドは地図から消え、レモンの圧政ブライトレモンとして新たな歴史を始めた。バナナランドはやがて御伽噺の世界に登場する空想の産物となった。悲しむ者はもういない。


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