2021年06月03日 【ギャグコメ】屋敷/墓場/真の城(742字を/0分で)


 アルファの屋敷は、裏手に墓場があるので安く買えた。血縁もわからない共同墓地で、新しい墓場を作ってからは埋める骨もなくなり、やが開拓の話が出るほどになった。それでも残っている理由はもちろん、取り壊し業者が相次いで故障や傷病に見舞われた。


 アルファにとっては曰くがつくほどお得な物件となっている。夜でもプラズマ現象によって多少の作業ができたり、畑に野生動物の肉が実り、夏は涼しい風が穏やかに流れる。快適な環境で、静かに趣味に没頭できる。


 ある朝、アルファは雷鳴で目を覚ました。普段なら日中は窓を開けるが、雨音が聞こえる日は別だ。床板がいい加減な木なので少しの雨でも腐ってしまう。しかし今日は、窓をノックする音が聞こえた。何かと思ってまずはカーテンを開いた。


 霊体の三人が空中に佇んでいた。一人は会話係のブラボーで、後ろの二人は泣いている子供と慰める親代わりの子供だ。普段は姿を見せない顔なので、アルファは異変を察知した。窓を開けて、三人を中へ招待する。


「ありがとう。実はこいつ、チャーリーは、雷に打たれて死んだせいで、今でも雷を怖がってる。今日だけ家を使わせてほしい」

「いいとも。私もただ喧しい雷鳴より、君たちの話し声の方が心地よい。賑やかに使ってくれたまえ」


 アルファはチャーリーの前に立つ。足の高さが違うおかげで、楽な姿勢のままで目線を合わせられる。


「初めまして、チャーリーくんだね。この中なら安全だ。何しろここは私の城だからね」


 チャーリーは頭を撫でられて、アルファに抱きついた。墓場には同年代が多く、大人と関わる機会はこれが初めてだ。生死を超えた友情を築いていたおかげで一人の少年が救われたのだ。


 アルファにとってはお得な物件だ。最悪の事態が起こっても引越し先が確保されている。




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