2021年05月31日【学園モノ】影/猫/悪の運命(1028字を/33分で)


 新入生の全員を朧げながら把握するまはごく短かった。アルファが担任として受けった生徒たちは特に、典型的な性格で固まっている。粗野な男子グループ、内気な男子グループ、派手な女子グループ、穏やかな女子グループ、そして賑やかな男女混合のグループに分かれている。


 アルファが教壇に立ってから四年目になる。隣のクラスも含めたら十三の集団を近くで見てきた。担当の数学を教えただけのクラスも含めればさらに多い。その経験から今年の新入生に異常を感じていた。あまりに整いすぎている。「彼氏いますか?」の質問に参加する人数がこれまでの平均値で、ふざけた回答で笑いを取る人数がこれまでの平均値で、笑う人数もこれまでの平均値だ。


 気になったので朝、職員室から教室に行くまでの時間で、こっそり下駄箱を確認した。全員の靴は毎日同じ場所に置かれている。前日の授業の内容による疲労の残り方が出ていない。誤差は目測で〇・三ミリメートル以内に収まっている。


 一人だけそうでない生徒がいた。泥棒猫と噂される女生徒ブラボーだ。彼女だけは誤差が〇・一ミリメートルになっている。異質あは誰の目にも明らかだ。


 木曜日は終業と下校の間に委員会活動がある。ブラボーの帰路を尾行する。幸いにも学校の西側へ向かう道が長い。夕陽が正面にあり、影による尾行の制限を受けない。ブラボーの身長に対する影の長さを確認した。目算だがやはり〇・五ミリメートルほど短い


 急に、影がさらに短くなった。異変を察知した頃にはアルファは術中にはまっていた。道路の窪みに重なって影が細く伸びる。その面積はちょうど短いと分かった部分と等しい。影が重なったのと同時にアルファの前身は硬直し、掴まれたような窮屈さに包まれる。


「アルファ先生、探しましたよ。チャーリーの言った通りだ」

「何者なの、あなた。ただの生徒じゃないね」

「悪の先生がいるって聞いたから、わざわざ出向いたんですよ。目敏いそうだから異常さに気づいて飛びつくと思っていました。だけど時間がかかりましたね。あなたの限界は〇・〇九ミリメートル」

「何の話かしら」

「ちょうど一年前に見つかった暗号文、細かい網状の二次元コードになってましたが、〇・〇九ミリメートルより小さい線はひとつも無かったんですよ。アルファ先生でしょう。あちこちで結婚詐欺を繰り返している犯人。他の証拠もありますよ」


 アルファの返事を待たず、ブラボーは仕事を始めた。世に潜む悪を人知れず消滅させる影の組織の一員として。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る