2021年05月30日【ミステリー】動物/レモン/最速のカエル(960字を/28分で)
白昼の市場で食べ物が盗まれる事件が多発している。田舎町でそんなことをすればすぐに顔が割れると思っていたが、犯人は一向に捕まらない。人の気配がない状況で売り物が減ったこともある。子供が隠れられる場所を見つけて見通しをよくしてみたが、それでも犯人は捕まらない。
商店街の元締も重い腰を上げた。五年前に連続殺人犯が町民に変装して成り代わった時以来のことだ。がやがやと話の先は果実泥棒から元締の決断に移った。一般の思考では元締が何を見越しているのかわからないのだ。
監視カメラを導入した。乾電池で動くタイプで、一秒に一度のコマ送りで記録する。朝から晩まで記録していられる。次の被害が出るまで待ち、監視カメラを確認した。全員が目を皿にしてコマ送りを見ている。果実がなくなる前後まで早送りして、減った瞬間のコマに映るものを探す。ところがここにも、何も映っていない。ただ消滅した記録がある。
動物が持っていったと予想する者もいたが、タマネギやレモンなどを含んでいるので元より説得力がなかった。今回の映像でほぼ確定になった。現れてから持ち去るまでを一秒以内に済ませたならばカメラに映らず持ち去れる。しかし、どの動物が商店街の外まで高速移動できるのか問われたら、誰も案を出せない。
そんな経歴を聞いて、アルファが若い見張りとして雇われた。銃弾の側面に書かれた数字を読める動体視力を持っている。アルファなら秒速六十メートルの存在を見つけられるに違いない。
結果はすぐにわかった。この地域には音速に迫る速度で跳ね回るカエルが生息している。夜な夜な聞こえる合唱は衝撃波で狩りをする音だったのだ。
アルファが見つけた以上、カエルたちが力量を抑えて衝撃波を出さずにいる理由がなくなった。音よりも速いカエルキックがアルファの肝臓に迫る。的が大きく、上下にも致命的な場所があり、左右に避けるには重心を崩すことになる。そうなったら第二第三のカエルが飛来する。
しかしこれは回避で対処する場合の話だ。アルファは音を上回る光の速度で虫眼鏡を叩きつけた。通常よりも剛毅な設計で、ハエ叩きと同等の使い方もできる万能型だ。頭から打ち返されたカエルを見て、群れのカエルたちの顔色が畏怖に染まった。
「カエルども。誰に教わったか知らんが、俺に勝つには音じゃあ遅すぎるぜ」
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