2021年05月28日【ホラー】青色/リボン/魅惑的な流れ(1628字を/記録エラー分で)
おしらせ
段落1の後半がすっかり抜け落ちていたので、
投稿した後で編集しました。
追加のみで、減った部分は0箇所です。
―― おしらせここまで ――
トットリ県で得た情報を元に、セスタとアルマはカガワ県に向かった。道中で冬を想定した衣類を確保する。「砂漠の怪物」改めゾディアックの目的はすべてこの先で待つ人物、エリアスが管理していると聞く。人間と友好的な存在としていながら、出会った二体はどちらも乱心し、攻撃を仕掛けてきた。原因を外部からの干渉と想定して、対処法を用意する第一歩として、セスタが伝令役を担う。
セスタは稼ぎが少ないので、オカヤマ駅から先はヒッチハイクを選んだ。若い女と幼い女の二人組を見て下心ある者が移動手段を提供し、少しでも不躾だったならば、セスタは小銭をくすねて軍資金の足しにした。相手も証拠を取られている手前、法的機関には頼れない。小銭程度なら見逃すほうが得になる。
数日かけて目的地に着いた。まずは商店街で聞き込みをする。昼食どきには少し早く、休憩に移る準備をしながら、最後のひと賑わいを見せている。エリアスの名を出し、居所を探す。そのついででアルマに初めてのウィンドウショッピングを楽しませる。午前の賑わいで売れ残った果物を、店としては売り切ってしまいたい。アルマに甘言を投げかけて、値段を勉強する。アルマはその度にセスタを呼んでおねだりを見せつける。
話のきっかけを作り、印象を振りまいていれば、当たりをいくらでも引ける。どんな内容であろうと相手から声をかけたならば、返事として目的の話に誘導する。自分から声をかけた以上、善意の第三者は話題を蔑ろにはまずしない。断片的でも情報を得られる。
セスタに拾われてから、アルマの経験がどんどん増えていく。初対面での関わり方を見て学び、道の選び方を知り、果物の皮の剥き方を試す。すべて故郷を離れられたおかげだ。そう考えると「砂漠の怪物」との出会いも悪くはなかった。共存の道もあるかもしれない。
集めた情報を元に歩き、指し示された区域についた。どの建物かをこれから足で確認する。番地を示すプレートは数字が大きく、建物が置かれた敷地もトウキョウよりはるかに広い。立派な庭があったり、ときどき小さな催事台で露店じみた商いをしている。練り歩いてエリアスを探す。
途中でアルマが、古道具屋のリボンに目を惹かれた。青が中心で外側に細い白のバイアステープが映える。長さはアルマの身長と同程度で、髪を留める際に結び方を覚える必要がある。セスタを引き止めるのも忘れてリボンを眺めている。太陽を背にしていたおかげでセスタが気づくのは早かった。
「これ、欲しい!」
アルマの輝く瞳を見て、値札と見比べる。食費の三日分の数字を見てセスタはたじろぐ。このお金をここで使ったらどうなるかを考える。幸いにも食べ物を安く買えたおかげで、あと五日は満足できる。その間に収入を得て、同時に本来の目的を進める。不可能ではないが、保険としてお金を残しておきたい。
しかし、アルマが積極的に装飾品を求めたのは初めてだ。意思の発露を踏み躙るのは年長者として恥ずべき行いと理解している。セスタは目尻を押さえて考える。買った場合に残るお金で間に合わせるには、どこかを節約するか、何かを諦めるか、どれかを早める方法が必要になる。
その仕草をアルマはこれまでにも見ていた。後には必ず問題を解決する方法を思いついている。今回も安心して、視線をリボンに移す。理由こそ説明できないが、とにかく惹かれる雰囲気を纏っている。同じ色のそっくりさんでは代替できない。材質か、光沢か、匂いか。目の前の一本が特別に思える。すぐ隣に並ぶ中に、似た色遣いのリボンもあるが、どれよりもこの一本がいい。
様子を見て、店主が出てきた。同時にセスタも結論を出す。
「これ、貰います」
「あいよ。嬢ちゃんたち、金持ちってわけじゃないみたいだ。半額でいいぞ」
「いいえ、それでは情けない思い出にさせてしまいます」
「律儀だね。なら、中に入りな。おまけをつけたる」
店主は中を案内するが、おまけと聞いてセスタが欲しいものは決まっている。店主は訳知り顔でセスタを見定める。エリアスと会って何を得るか、もし失うばかりの者ならば帰らせるつもりでいる。
店主は答えを出した。
「いいだろう。エリアスを呼んでやるよ。それとは別におまけも選んでいきな。お代はあいつが持つ」
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