2021年05月18日【邪道ファンタジー】黄昏/ケータイ/真の才能(1312字を/36分で)
雪景色が夕陽を浴びて金色に輝く。魔王城の絶景は有名な観光スポットであり、世界中の観光客が絶え間なく押し寄せている。
今日は偶然にも勇者との決戦が始まった。王様の命により、魔王の首を持ち帰るための万全の策がある。観光雑誌を熟読し、公式ホームページをディレクトリ構成まで見て、攻略ウィキに集まるユーザの声も把握している。観光客が集まる場所では勇者の移動力が下がる反面、魔王の強烈な範囲攻撃が鳴りを潜める。大事な金づるを傷つけたら長期的な損失が大きい。
勇者の立ち回りは防戦一方だ。泥試合を攻略できずにいる魔王を演出したら必ず支持率落ちる。魔王はそれを嫌って焦った攻撃を仕掛けてくる。そこで生じる隙を狙う作戦だ。ただし勝ち方も、ヒロイックな一撃ではいけない。支持率が上がればやがて魔王を復活させようとする教団が現れる。カタルシスなく、このままでは負けると見せつけて、誰もが予想した通りに負けさせる。
勇者の計画通り、観客はしらけ気味だ。初めこそ挑戦者に盛り上がっていたが、いまでは剣と盾を構えて空間を占有するだけの邪魔なクレーマーにすぎない。勇者の資質は目的のために自らを犠牲にする覚悟だ。この程度で勇者士気は落ちない。対する魔王は。つまらない芸を見せられ、邪魔な存在を立ち退かせることもできず、観光地が提供するべき体験を棄損する一方になっている。そろそろテコ入れをしたくなる時期だ。勇者の戦いは剣技だけにあらず、知略や魔術も扱えてこそ真の勇者である。師の教えを身につけ、初めての免許皆伝を得た勇者は、誇りにかけて今日、魔王を討つ。
「勇者よ! 我をここまで追い込んだ者は初めてだ。面白い、我が真の力を見せてやろう。皆の者、刮目せよ! 今世紀初解禁、魔王の第二ケータイだ!」
仰々しい口上で観客の注意を集めて、派手な演出による視線を誘導する。本当の狙いは勇者の背後から忍び寄る間者だ。魔王め、手品師のような真似を。咄嗟の出来事だが勇者にも考えがある。
背後から狙うからこそ前に出た。視線の誘導先に飛び込み、眩い光を盾で覆う。観客の視界が確保できたところで反転し、忍び寄る間者に剣の一撃を加えた。注目先は魔王の第二ケータイを離れ、勇者へ、勇者の剣へ、剣先の軌道へ、そして斬り伏せられた誰かへと移る。観客は多種族が集まっていて、魔族のマナーとして共通のローブで姿を覆っている。差異を体型が違う程度に見せて、余計な視覚情報を減らしている。その例外は現地人のみ。つまり場を提供する魔王と、魔王の配下に限られる。人員も風景の一部であり、観客は出身地を離れたご当地を求めている。
姿を晒した者が背後か忍び寄った事実は、個の肉体以上に、魔王のブランドに傷を残した。情けない手を使った挙句、クレーマーの対処に失敗している。観光地としての人気は失われ、四年先までいっぱいだった予約のキャンセルが相次いだ。数少ない残りの予約も時期が来る前に経営不振で無力化され、追い込まれた魔王は見せ物小屋の世話になる。
こうして、勇者は王様の命の通り、魔王の首を討ち取った。次は人間の威光を見せて増長した王様の番だ。魔族側も勇者を輩出すべく才あるものを集めている。
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